COLUMN

- コラム

自然エネルギーや環境保全などに関する様々な取り組みを解説します。

創薬ベンチャーエコシステムとは?政府が推進するバイオ産業の成長戦略

バイオものづくりは、遺伝子技術を活用して微生物や動植物の細胞を使い、化学素材や燃料、医薬品、食品などを生産する技術であり、カーボンニュートラルや循環型社会の実現に貢献する手段として注目されています。こうした先端技術の社会実装を後押しするため、日本政府は「バイオ政策」を掲げ、医療やエネルギーなど多様な分野において大規模な支援を進めています。
本記事では3回にわたり、バイオ政策の重要分野の1つである「医療分野」についてご紹介します。1回目となる今回は、バイオテクノロジーの「産業化」にフォーカスし、創薬ベンチャーを取り巻く支援体制や直面する課題、そして今後の可能性について経済産業省小委員会の報告1をもとに詳しく解説します。

創薬ベンチャー支援の新たな取り組み

創薬ベンチャーエコシステムは、革新的な新薬を継続的に生み出すために、多様なプレーヤーが連携し、オープンイノベーションを通じて研究開発から実用化までをシームレスにつなぐ仕組みをいい、経済産業省はバイオ政策の1つとして創薬ベンチャーエコシステムの強化に取り組んでいます。

創薬ベンチャーエコシステム強化事業の具体的な支援内容と最終目標

創薬ベンチャーエコシステムの強化に向けたアクションプランには、創薬ベンチャーの環境整備、ベンチャーキャピタル(VC)の育成、アーリーステージからの切れ目ない支援、資金調達機会の創出を挙げており、そのなかで経済産業省が具体的な施策として「創薬ベンチャーエコシステム強化事業2」を2022年から推進しています。
この事業は、創薬ベンチャーに対して、非臨床試験、第1相臨床試験・第2相臨床試験を対象に、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)が認定したVC(認定VC)による出資額の2倍相当(3,500億円)の治験費用を10年間にわたり支援する事業です。
この事業により大学の研究成果や製薬企業からの事業分離(カーブアウト)を活用し、新しい創薬ベンチャーが次々と生まれる環境を整備します。これにより、起業のノウハウを持つ人材が育ち、国内のVCから数十億円規模の資金調達が一般的になることを目指します。
また、開発の初期段階から海外市場を視野に入れ、臨床試験の早期実施を促進させ、米国をはじめとする海外拠点の設立や、現地の規制当局(FDA)への対応も支援します。これにより、海外のVCから数十億~数百億円の資金調達を可能にし、開発のスピードを加速させます。
最終目標は、製薬企業による合併・買収(M&A)や高い企業価値での新規株式公開(IPO)を果たすことでユニコーン企業(企業価値1,000億円以上)を輩出し、総額1兆円規模の投資資金の回収(Exit)を生み出すことです。さらに投資回収で得た利益は、次世代の創薬シーズ(研究成果)への投資や、人材育成、国内の製造拠点整備につなげることで、日本の創薬産業全体の成長がにつながると期待されています。

創薬ベンチャーエコシステム強化事業の目標イメージ

前述のように、経済産業省はこの事業を通じて、ユニコーン企業の創出や、大規模なExit(上場やM&A)による成果の実現を目指しています。その達成に向けて、認定VCとの連携を強化し、資金供給のスケールアップを図ることで、創薬ベンチャーの成長環境を整えています。
現在、AMEDによって23社のVCが認定されており、各社には10年後にファンドの規模を150億円以上拡大することを求めています。現時点、100億~150億円のファンドが多いことから、多くのVCが約2倍のファンドを組成することを目標に据える必要があります。
エコシステム全体の形成は、中長期的な視点で取り組まれており、官民が協力しながら今後10年にわたる成長戦略が描かれています。

経済産業省が求める創薬ベンチャー投資の条件

創薬ベンチャーエコシステムの強化には、適切な投資とExitを行うVCの存在が不可欠であり、経済産業省は以下の観点を踏まえて強化事業における認定VCの更新要件を設定することを検討しています。

グローバル市場への展開

生み出す医薬品の価値最大化のため、マーケットを国内だけではなく、海外にも求め、各国の規制当局(FDAなど)の承認取得を目指すロードマップを策定できること。

M&Aを活用したExit戦略

医薬品の開発・承認取得・販売のノウハウを持つ企業によるM&Aを基本としたExit戦略を策定できること。

医薬品上市を目的としたIPO

IPOを行う際には、上場後の資金調達を見据え、十分な時価総額で市場に参入すること。スモールIPOによるExit戦略は推奨しない。

後継ファンドの組成

既存のファンドも大きい規模の後継ファンドを組成できていること。具体的には、2031年末までにファンドサイズを2倍に拡大する道筋が描けていること。

民間資金の活用

政府系資金だけでなく、機関投資家や民間金融機関からの出資を受けることができていること。

これらの条件を満たすVCが育成されることが期待されています。

非臨床試験段階(アーリーステージ)へ支援の拡大

経済産業省は、アーリーステージへの支援を行うために創薬ベンチャーエコシステム強化事業の適用範囲の拡大も図っています。
創薬ベンチャーが臨床試験へ進むためには、十分な資金が必要です。これまでの事業では、主に臨床試験の段階に入った企業を対象としていましたが、新たな取り組みとして、補助の対象を非臨床試験段階(アーリーステージ)にも拡大しました。
具体的には、認定されたVCから一定額以上の出資を受けている創薬ベンチャーに対し、非臨床試験の費用を補助します。バイオ医薬品や再生医療等製品において、最終開発候補品を特定するための研究開発資金が補助対象です。

日本の創薬ベンチャーが世界市場へアピール「Japan Innovation Luncheon 2024」

創薬ベンチャーエコシステムの強化に向けたアクションプランとして資金調達機会の創出にも取り組んでいます。2024年6月3日から6日世界最大級のバイオビジネスマッチングイベント「BIO International Convention 2024」に合わせ、「Japan Innovation Luncheon3」が米国サンディエゴで開催されました。このイベントは、経済産業省と日本貿易振興機構(JETRO)の共催で行われ、日本の創薬・バイオ産業の取り組みを世界に発信する場となりました。イベントでは、岸田元総理のビデオメッセージが紹介され、経済産業省による日本政府の支援政策の説明が行われました。また、スタートアップ企業のプレゼンテーションやネットワーキングを通じて、日本のバイオテクノロジー分野の魅力を海外の投資家や関係者にアピールしました。

創薬ベンチャーの今後の展望

1回目となる今回は、バイオテクノロジーを活用した創薬ベンチャーの支援策や課題について解説してきました。
創薬ベンチャーの成長には、資金調達のハードルや人材の確保、アカデミアと産業化の溝など、依然として多くの課題が存在します。政府・自治体・企業・研究機関が協力し、新たな技術開発と市場形成を両立させながら、バイオテクノロジーの産業化を加速させることが、日本の持続可能な発展につながるでしょう。今後も政策の動向に注目し、さらなる成長の機会を模索していくことが重要です。
次回は、バイオ医薬品に対する日本政府の最新の支援施策に加え、製造基盤の強化や創薬技術の最先端動向についてご紹介します。

【出典・参考資料一覧】

  1. 【1】経済産業省「産業構造審議会 商務流通情報分科会 バイオ小委員会 報告書(バイオ政策のアクションプラン)↩︎
  2. 【2】国立研究開発法人日本医療研究開発機構「イノベーション・エコシステムプロジェクト 創薬ベンチャーエコシステム強化事業↩︎
  3. 【3】経済産業省「Japan Innovation Luncheonを開催しました↩︎