再生可能エネルギーは、地球環境保全と持続可能な社会の実現に向けた鍵となる存在です。2050年のカーボンニュートラル実現には、FIT/FIP制度で支えられた太陽光発電をはじめとする既設の再生可能エネルギー(以下、再エネ)の電源が、調達期間(再エネで発電された電力を電力会社が固定価格で買い取る期間)が終了した後も長期にわたり稼働し続けることが重要です。
日本では2018年に第5次エネルギー基本計画1が閣議決定され、再エネの「主力電源化」が初めて掲げられました。この計画は、再エネを単なる補助的な役割から、電源構成の柱となる存在へと進化させることを目指しており、2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画2でも再エネを主力電源として最大限導入することが明記されています。政府と関連団体は、次に解説する「再エネ主力電源化アクションプラン(案)」3を作成し、社会に根付いた主力電源として定着させる取り組みを計画しています。この記事では、政府が公開した「再エネ主力電源化アクションプラン(案)」の内容を、関係事業者や政府の具体的な役割と合わせて解説します。
各ステークホルダーに求められる役割とアクションプラン

では、各ステークホルダーに求められる具体的な役割とアクションプランについて解説していきます。
現所有者に求める行動と具体的なアクションプラン
事業の現所有者は、調達期間や交付期間(再エネ発電事業者が制度に基づいて交付金を受け取る期間)終了後も事業を継続できるよう、設備の定期点検、メンテナンスやリパワリング(設備を更新や追加して発電量を増やすこと)などの対策、調達期間や交付期間終了後も見込んだ事業方針が重要視されます。そのため、以下のようなアクションプランを現所有者に求めました。
①評価技術者による定期的な点検
「太陽光発電事業評価技術者」などの評価技術者が定期的に設備を点検し、その結果を国へ定期的に報告する。
②構造計算書の保管と引き継ぎ
適切に事業評価ができるよう、再エネ発電設備の構造計算書を適切に保管し、売却時には新しい所有者に引き継ぐ。
③事業継続のあり方について事業計画の作成と報告
政府や事業者団体による広報などを参考として、事業継続の計画を立案し、その結果を国へ定期的に報告する。
④事業団体が提供するマッチング支援を利用した売却
事業売却時は認定情報の公表や事業者団体によるマッチング機能等を活用し、長期的な事業安定化を図る。
これらの取り組みにより、再エネ発電事業の持続可能性と長期安定性を確保することが目指されています。
事業の買い手に求める行動と具体的なアクションプラン
事業の買い手は、リパワリングや蓄電池の活用を進めるだけでなく、再エネの価値を評価してくれる需要家とのつながりを確保し、これらを組み合わせたビジネスモデルを作り上げることで、購入した再エネ発電事業を安定的に長期運営することが重視されます。そのため、以下のようなアクションプランを買い手に求めました。
①長期安定的に再エネ発電事業を継続できるプレーヤーとして、一定規模の事業集約を行うことにコミットメントを行う。
②関連プレーヤーと協力し、リパワリング、蓄電池の活用、需要家との連携を組み合わせたビジネスモデルを構築する。また、既存事業を含めた開発方針を明確にする。
これらの取り組みにより、設備を利用するだけでなく安定的に事業を継続することが目指されています。
事業者団体に求める行動と具体的なアクションプラン
事業者団体は、業界全体を代表する立場として、適正な取引を促進し、取引を活性化させる役割が期待されています。また、事業者団体が関与することで、取引の信頼性を向上させることができます。そのため、事業を長期的に安定して運営するために、事業団体は事業者が適切な行動を取れるような環境整備を行うことが重要視されます。そこで以下のようなアクションプランを事業者団体に求めました。
【再エネ発電事業者の行動変容の促進】
①事業継続方針策定に向けた支援
現所有者が事業継続に向けた明確な方針を立てられるよう、事業の自己診断用チェックリストの改善や計画立案に資する情報の提供を行う。
②事業確立に向けた支援
事業の買い手が、長期安定的に事業継続できるよう、成功事例の分析などの事業確立に資する情報発信を行う。
③売り手と買い手のマッチング促進
事業売却を検討している設備や土地の情報を収集して事業者団体のサイトで公開し、売り手と買い手のマッチングを促進する機能の提供を行う。
④「太陽光発電事業の評価ガイド」の具体化・精緻化
事業リスクを踏まえた適切な保険加入や、事業集約時の事業評価に資するよう評価ガイドの具体化・精緻化を図る。
【評価人材の育成】
⑤評価技術者の増員
既存設備の定期点検を行う人材を十分に確保するため、具体的な目標を設定し、評価技術者の増員を図る。
⑥専門性と信頼性の向上
評価実績に基づいたバッジ制度を導入するとともに、評価技術者の専門分野(法令、土木、設備など)を可視化することで、評価の質と信頼性を確保する。
これらの施策により、事業者の行動をサポートし再エネ発電事業の安定的な運営と業界全体の信頼性向上を狙います。
事業評価者に求める行動と具体的なアクションプラン
事業評価者は、既存の再エネ発電設備の適切な評価を行うことで、現所有者がリパワリングを進めるきっかけを作るとともに、デューデリジェンス(投資の意思決定のために行われる資産評価やリスク調査)の効率化を通じて事業の集約を促進する重要な役割を担っています。そのため、事業者団体などと連携し、評価サービスの質をさらに向上させることが重要です。そこで以下のようなアクションプランを事業評価者に求めました。
①実践的な評価基準の策定と運用
太陽光発電協会の「評価ガイド」などを参考に、既存の再エネ発電設備を適切に評価できる実践的な評価基準(格付け制度)を策定する。この基準を用いて評価技術者が効率的に評価を行い、事業者団体に適切な情報を提供して評価の方向性の具体化・精緻化に貢献する。
②サービスの高度化と信頼性向上
評価を受けた事業者や金融機関、保険業者からのフィードバックを活用し、提供するサービスの質を向上させる。また、サービスに関する情報発信を積極的に行い、評価基準(格付け制度)の信頼性をさらに高める。
金融機関や保険事業者に求める行動と具体的なアクションプラン
金融機関は、事業の買い手が必要な資金をスムーズに調達できるよう支援する重要な役割を担っています。そのため、事業集約にかかる費用(取引代金、デューデリジェンス、設備更新、メンテナンス、蓄電池の設置など)に対して、効果的な融資や出資を行う方法を検討することが求められます。また保険事業者は、再エネ発電事業に関連するリスクをカバーする役割を担っており、事業を長期的かつ安定的に運営するために、リスクを適切に引き受けるための効果的な手法を検討することが重要視されます。そこで以下のようなアクションプランを金融機関と保険事業者に求めました。
【金融機関】
①事業集約を目指す買い手に対し、効果的な融資や出資を円滑に提供する。
②ファイナンス時のデューデリジェンス効率化のため、事業者団体の評価基準や格付け制度を有効活用する。
③民間金融機関と連携して融資や出資、債務保証を行い、長期安定的に再エネ発電事業を継続できる政策金融のあり方を検討する。また、事業集約に必要な支援のあり方を検討する。
【保険事業者】
①太陽光発電事業の事業リスク(災害・盗難など)を適切に評価し、長期的に安定して事業を継続できる再エネ発電事業者に対して保険の引受けを行う。
②効果的な保険商品を開発するため、事業者団体の評価基準や格付け制度を活用し、必要なフィードバックを提供して制度の有効活用を図る。
その他の関係事業者に求める行動と具体的なアクションプラン
その他の関係事業者にも、以下のアクションプランを求めました。
【設備更新技術/蓄電池技術の保有企業】
設備更新や蓄電池技術を事業の買い手に提供することで、買い手のビジネスモデル確立に貢献する。
【需要家/小売電気事業者】
再エネの活用を評価する際に、既設の再エネの評価のあり方を検討する。
【太陽光発電設備メーカー・O&M企業】
太陽光発電設備のメンテナンスやリパワリングを適切に実施できるよう、事業者に製品情報やサービスを適切に提供する。
【研究機関等】
低圧太陽光発電設備のデューデリジェンスを機械的に実施する技術手法を開発し、その普及を促進する。
政府に求める行動と具体的なアクションプラン
政府は、関係事業者がそれぞれの役割を果たし、事業集約を促進する取り組みが進むよう、目標設定や情報提供を行いながら、必要な制度や環境の整備を進めることが必要です。そのため、以下のアクションプランを政府に求めました。
①事業集約の目標設定と計画策定
事業集約の全国的な目標を設定し、具体的なアクションプランを策定する。
②報告義務と情報公開
現所有者が既設設備の定期点検結果や調達期間終了後の事業継続計画を定期報告する仕組みを導入。また、事業売却を希望する所有者の情報(公表同意者のみ)を公開し、取引活性化を図る。
③長期安定適格事業者の認定
責任ある事業者を「長期安定適格太陽光発電事業者(仮称)」として認定する制度を導入し、認定事業者向けの事業集約促進策を検討する。
④構造計算書の適切な保管
事業売却時に適切な評価が行えるよう、再エネ発電設備の「構造計算書」の保管方法を検討する。
⑤連携プラットフォームの提供
関係事業者が連携し、課題の解決や意見交換が行えるプラットフォームを提供し、事業集約をさらに促進する。
上記の取り組みにより、関係者が円滑にそれぞれのアクションプランに取り組めるようサポートする体制を強化していきます。

以上、政府が公開した「再エネ主力電源化アクションプラン(案)」の内容を、関係事業者や政府の具体的な役割と合わせて解説しました。今後、各ステークホルダーが適切に対応することで、再エネを社会に根付いた主力電源として定着させることが期待されています。
【出典・参考資料一覧】
- 【1】資源エネルギー庁「これまでのエネルギー基本計画について(第5次エネルギー基本計画)」 ↩︎
- 【2】資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について(第7次エネルギー基本計画)」 ↩︎
- 【3】経済産業省「再エネ大量導入・次世代電力NW小委員会(第71回)(再エネ主力電源化アクションプラン(案))」 ↩︎