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自然エネルギーや環境保全などに関する様々な取り組みを解説します。

2030年から本格導入!CCS支援制度とは?

近年、地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)の排出削減が世界的な課題となっています。日本でも、カーボンニュートラル(CO2の排出量と吸収量を均等にすること)を目指し、さまざまな取り組みが進められており、その中でも注目されているものの1つが「CCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素回収・貯留)」という技術です。CCSは、工場や発電所から排出されるCO2を回収し、地中に閉じ込めることで大気中へCO2の放出を防ぐ仕組みです。
しかし、この技術を広く普及させるには、設備の導入や運用にかかる高額な費用、CO2の運搬方法、地中貯留の安全性など、多くの課題があります。そこで、日本政府は、CCSを実用化するための支援制度を検討しています。この制度では、企業がCCSを導入しやすくするための資金援助やリスク管理の仕組みが整備される予定です。
本記事では、CCSの仕組みや日本政府の支援策、今後の展望について詳しく解説します。CCSがどのように地球温暖化対策に貢献するのか、また、日本がこの技術をどのように発展させようとしているのかを知りたい方は、ぜひ最後までご覧ください。

CCSの仕組み

CCSとは、発電所や工場などで化石燃料を使用した際に生成される二酸化炭素を分離・回収し、地下に貯留する技術であり、カーボンニュートラルの達成に向けた重要な技術オプションです。
CCSでは、地下約1,000~3,000メートルにある貯留層まで井戸を掘り、地中の圧力や温度を活用して、CO2の体積を約300分の1まで圧縮して貯留します。また、上部にはフタとなる遮蔽層があることが前提となります。
この技術には、約50年の実績がある石油増産技術(CO2を油田・ガス田に注入して増産を図る手法)で確立された手法が活用されています。貯留されたCO2は、①地下構造や②砂岩層の隙間に閉じ込められ、さらに③地層水への溶解、そして長期的には④鉱物化といったプロセスによって、徐々に閉じ込めが進みます。地中での貯留経過時間が長くなるほど、貯留の安定性は高まっていきます。
CCSの仕組みや特徴については、別の記事で詳細に解説します。本記事では、CCSを促進する支援制度に焦点を当てて説明します。

CCS支援制度の狙いと具体的な内容

この制度の目的は、CO2排出の多い産業(鉄鋼・化学など)の国際競争力を維持しながら、エネルギー分野の脱炭素化に貢献することです。また、日本のCCS関連企業の成長に繋げることも狙いとされています。

CCS支援制度によって目指す姿

CCS事業に対する支援制度は、事業者が自律的にコスト削減を図る仕組みなどを検討し、国内外でのCCS事業展開に向けた投資判断を促すことも目的の一つです。そのうえで、2030年時点において年間600万〜1,200万トンのCO2排出削減を目指すとともに、日本国内において世界的なコスト競争力を備えたCCSバリューチェーンの構築を進めていきます。

この取り組みにより、①鉄鋼・石油化学・セメントといった「排出削減が困難な産業(Hard to abate)」の国際競争力を維持し、②電力や石油精製など、産業や国民生活の基盤となる分野での急激なコスト上昇を回避し、③日本企業がCO2の分離・回収、輸送、貯留といった各段階において、他国のCCS事業を受注する際に優位に立つことを目指します。

分離・回収の分野

分離・回収の分野では、すでに商用化されている化学吸収法において日本企業が世界シェアの7割を占めており、欧米におけるプロジェクトでも複数の受注実績があります。さらに、固体吸収法や物理吸収法といった、より低コストな手法においても、日本はプラント実証で世界をリードしています。なお、年間100万トンを超える回収実績は、世界的にもまだ少なく、日本は先進的なCCS事業における実績の先行を目指しています。


輸送分野

輸送分野では、欧州や東南アジアにおいて、他国のCO2を受け入れて貯留する事業の検討が進められており、大容量の液化CO2輸送船が不可欠となります。液化CO2は容易にドライアイス化する特性を持つため、LNG船とは異なる設計や運航管理が必要とされます。現在は、新たな手法による実証船やその設計の共通化が進められており、これにより新たな市場の開拓が期待されています。


貯留分野

貯留分野においては、中長期的には帯水層へのCO2貯留も有望とされています。北海道・苫小牧における実証事業や、今後の先進的なCCSプロジェクトを通じて、さらなる技術の確立と普及を目指しています。

主な支援内容

日本政府が検討している支援制度は次の通りです。


CCS事業のコスト負担を軽減

前述のようにCCSにはCO2の「分離・回収」「輸送」「貯留」といったプロセスがあり、大きなCCSコストがかかります。一方、CO2排出者(企業)は、排出削減のために税やクレジット(排出枠の購入)などのCO2対策コストを負担しなければなりません。このギャップを埋めるため、日本政府はCCS導入に必要な資本的支出(CAPEX)だけでなく、運用費(OPEX)も支援します。


支援期間の設定

2030年から始まるCCS事業に対して、CCSコストとCO2対策コストが逆転するまでの間、日本政府が支援を行います。海外の支援制度も参考にしながら、中長期的に制度を整える方針です。


自立化を促す仕組み

企業が競争の中で技術を発展させ、継続的なコスト低減に向けた取組みを促し、最終的には自立した事業運営ができるような仕組みとします。


他の政策との連携

2033年以降、排出量取引制度(GX-ETS)では発電事業者に対して「有償オークション」が導入される予定です。このため、CCS支援策の適用方法は電力業界とその他の業界のそれぞれの状況に応じて検討します。また、合成燃料やメタネーション(CO2を再利用する技術)との関係を考慮しながら、制度の整合性を確保します。


国内外のCCS貯留の扱い

CCSでは、CO2を国内だけでなく、海外の地下にも貯留する方法が検討されています。海外貯留には、現地の事業環境整備の動向やCO2を輸送する船の条件設定など、さまざまな課題があるため、国内と海外のそれぞれの状況を考慮しながら計画を進めます。


2030年以降の支援策

CCSの貯留地開発には長い時間がかかるため、2030年の事業開始に向けた支援と並行して、2040年・2050年を見据えた貯留地の確保を国内外で進める必要があります。国内外の脱炭素化の動向を踏まえ、長期的な支援策を検討していきます。

CCS支援制度の具体化に向けたワーキンググループの設置

CCSを推進するため、日本政府は今後の支援制度の詳細な設計を進めています。そのために、専門家が議論を行うワーキンググループ(WG)を設置し、さまざまな課題について検討しています1。WGで議論されている設備の建設、分離・回収、輸送、貯留といった各工程において、具体的にどのくらいコストがかかるかを日本政府が2024年に発表した資料2に基づき次章から解説します。

CCS導入による主なコスト要因

まず、設備の建設費は1基あたり約2,076億円かかるとされ、これには設備廃棄費用や固定資産税なども含まれます。加えて、40年間の運転を想定した場合、燃料費は約4,856億円/基、運転維持費(人件費・修繕費など)は約2,045億円/基に達します。
また、CCS技術によってCO2を分離・回収しても、一部のCO2排出は避けられず、その分の排出権購入費として約1,921億円が必要と試算されています。
さらに、CO2を回収・輸送・貯留するためのCCS費用も大きな割合を占めています。分離・回収設備の資本費・運転維持費は8.3円/kWh、輸送コスト(陸上パイプライン200kmまたは船舶1000km)は3.8円/kWh、貯留にかかるコストは2.2円/kWhとされています。これらを合計すると、40年間で約1兆1,741億円のCCS費用がかかる見込みです。

輸送方法によるコスト差

CO2の輸送方法によってもコストは変わります。パイプライン輸送を選択した場合、発電コストは1kWhあたり27.6円となりますが、船舶輸送を行う場合は31.5円に上昇します。
この試算は、日本が石炭火力発電を維持しながらも、環境負荷を減らすためにCCS技術を活用する場合の費用を示しています。CO2削減のためには大規模な投資が必要となり、それが発電コストに大きく影響を与えることが分かります。

CCSを活用したLNG火力発電のコスト試算

CCSを用いた液化天然ガス(LNG)火力発電のコストについて、2040年時点での試算が示されています。発電コストは政策経費の有無によって異なりますが、おおよそ1kWhあたり17.0~21.1円と見込まれています。このコストには、資本費、燃料費、運転維持費、CO2対策費などが含まれます。

発電コストの内訳

資本費には建設費や固定資産税、設備廃棄費用が含まれ、1基あたりの総額は約1,785億円と試算されています。燃料費は9.1円/kWhで、40年間の総額は約6,735億円/基に達します。また、運転維持費は2.1円/kWhで、人件費や修繕費などを含めた40年分の総額は約1,532億円/基です。
さらに、CO2対策費として、分離・回収しきれなかったCO2の排出権購入費用が発生し、その総額は約716億円と見積もられています。加えて、CO2の回収・輸送・貯留にかかるCCS費用も試算されており、輸送方法によって異なるコストが想定されています。例えば、パイプラインによる輸送費用は1.6円/kWhで、40年間で約3,316億円のCCS費用がかかる見込みです。更に船舶輸送ではより高コストになる傾向があります。

発電設備の基本モデル

試算の基となる発電設備のモデルは、設備容量60万kW、設備利用率70%、CO2回収率90%、発電効率52.5%と設定されており、約40年間の運用を想定しています。これらの試算は、国際エネルギー機関(IEA)のシナリオを参考にしており、政策経費を考慮した場合と考慮しない場合でコストが異なることが示されています。

CCS付LNG火力 発電コストの内訳3

CO2対策費用とは?

CO2対策費用とは、2050年までにカーボンニュートラルを実現するため、将来的に発生する社会的費用の一部を内部化するためのコストです。これは、温室効果ガス排出に対する社会的な影響を考慮し、価格として反映する仕組みです。しかし、環境負担のすべてを数値化するのは難しく、あくまで一部の費用を試算する形になります。

CO2対策費用の試算の前提

この費用を算出する際には、国際的なCO2価格の動向を参考にすることが重要です。これまでの試算では、EUが発表している「公表政策シナリオ(STEPS)」を基本シナリオとして、価格の見通しを示してきました。EUの排出権取引制度(EU-ETS)は、カバー率が約40%と限定的ではあるものの、排出削減の目安として広く活用されているためです。
また今回の試算では、日本の状況に近い韓国の排出権取引制度の価格も参考にしました。現在、日本では排出量取引制度が試験運用の段階にあるため、海外のデータをもとに柔軟なシナリオを設定し、将来の対策費用を検討しています。

CO2価格の推移と試算結果

具体的には、短期的な対策費用として、EU-ETSの2023年平均価格である12,725円/t-CO2を基本値としつつ、韓国の排出権取引制度の2023年平均価格である1,061円/t-CO2も参考値として活用しました。さらに、将来的な費用については、EUのSTEPSトレンドを基準にしつつ、より厳格な削減目標を持つ「表明公約シナリオ(APS)」や韓国のSTEPSトレンドも参考値として活用し、試算結果を示しました。
なお、2021年の試算では、2030年のCO2対策費用を4,280円/t-CO2と見積もっていましたが、その後のEU-ETS価格の高騰や為替変動により、今回の試算では大きな変化が見られました。特に、CO2価格は2021年時点の28ドル/t-CO2から現在の129ドル/t-CO2へと上昇し、日本円の為替レートも107円/ドルから141円/ドルへ変動したことが影響しています。

WEO2024のCO2価格推移シナリオを踏まえた見通し4

まとめ

CCSは、日本がカーボンニュートラルを実現するうえで重要な選択肢とされており、日本政府はその導入拡大に向けて支援制度の設計を進めています。CCSにはCO2の分離・回収、輸送、貯留といった複数の工程があり、全体のコストは膨大です。日本政府はこうしたコスト構造を踏まえ、CAPEX・OPEXの両面で支援を行う方針です。こうしたCCS支援制度についての議論は2025年2月から始まっています5
また、これまでの検討を踏まえ、「二酸化炭素の貯留事業に関する法律(CCS事業法)6」の施行が進められています。CCS事業法は、下記の三段階に分けて段階的に施行されます。
(1)探査に関する規定
(2)試掘に関する規定
(3)貯留事業・導管輸送事業に関する規定
このCCS事業法は、令和6年5月に公布されており、今後2年以内に全面施行される予定です。
また、具体的な目標やアクションについて、「CCS長期ロードマップ7」にもまとめられています。
2030年までの事業開始に向け、コスト低減、国民理解、海外CCS推進、CCS事業法整備などの事業環境を整備し、2030年以降に本格的にCCS事業を展開することを目標としています。CCSロードマップに関しては、以降の記事でも詳しく説明します。

【出典・参考資料一覧】

  1. 【1】経済産業省「CCS事業の支援措置に関するワーキンググループ↩︎
  2. 【2】経済産業省「第8回 カーボンマネジメント小委員会(CCS支援制度のたたき台について)↩︎
  3. 【3】経済産業省「第8回 カーボンマネジメント小委員会(CCS支援制度のたたき台について)↩︎
  4. 【4】経済産業省「第8回 カーボンマネジメント小委員会(CCS支援制度のたたき台について)↩︎
  5. 【5】経済産業省「CCS事業の支援措置に関するワーキンググループ↩︎
  6. 【6】環境省「水環境・土壌農薬部会 第14回(資料7 二酸化炭素の貯留事業に関する法律等について)↩︎
  7. 【7】経済産業省「CCS長期ロードマップ検討会 最終とりまとめ↩︎