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- コラム

自然エネルギーや環境保全などに関する様々な取り組みを解説します。

日本における次世代型太陽電池戦略 〜ペロブスカイト太陽電池の導入拡大に向けて〜

近年、太陽電池は新規電源として最大の導入量を誇り、脱炭素化を進める上での主力電源となりつつあります。太陽電池が世界で注目される中、日本は、2050年のカーボンニュートラル実現のために、太陽電池の更なる活用を可能とする次世代技術の開発・実装に取り組んでいます。特に、次世代型太陽電池として日本発の開発技術が進む「ペロブスカイト太陽電池」の導入拡大と産業競争力の強化に向けた戦略について、日本の太陽電池産業の現状を踏まえつつ、官民協議会の報告1をもとに今後の方向性について詳しく解説します。

日本における太陽電池産業の振り返り及び課題

日本は、1973年のオイルショックを契機として、サンシャイン計画を皮切りに太陽光パネルの技術開発を進め、2000年頃には世界シェアの50%を占めるに至りました。しかし、2005年以降、中国をはじめとする海外勢に押され、現在では市場シェアが1%未満にまで縮小しています。主要因は、需要創出や投資に対して規模とスピードに問題があったことだと指摘されています。

次世代型太陽電池として期待されるペロブスカイト太陽電池について

このように、日本において太陽電池産業の優位性が崩れる中、次世代型太陽電池として注目されているのがペロブスカイト太陽電池です。現在、太陽電池産業では主流のシリコン太陽電池が市場の95%を占めています。シリコン太陽電池以外の様々なタイプの太陽電池が開発されているなか、特にペロブスカイト太陽電池は、国内において開発が進められ、直近10年間で変換効率が約1.5倍に向上しました。軽量・柔軟という特徴を有し、低耐荷重性の屋根や壁面等これまで設置困難であった場所を有望な設置場所へと変化させ、新たな導入ポテンシャルを生み出すことが期待されています。2025年から一部の企業で事業化が開始される予定があり、特にフィルム型では耐久性や大型化の面で技術的に世界をリードしています。次章では、ペロブスカイト太陽電池についてその特徴を詳しく説明します。

ペロブスカイト太陽電池の種類と特徴

ペロブスカイト太陽電池とは、3種類のイオン(代表的にはA:有機アンモニウム、B:鉛、X:ヨウ素)がABX3のペロブスカイト結晶構造で配列する材料を発電層に用いた太陽電池の総称であり、国内研究者が開発した日本発の技術です。 2009年に初めて作製されたものの、当時の発電効率は3~4%でしたが、2012年に、固体型ペロブスカイト太陽電池が英国と日本の研究者らによって共同開発され、安定性が向上したことを皮切りに研究開発が加速し、2024年11月には、26.7%まで発電効率が向上しました。ペロブスカイト太陽電池の種類は主にフィルム型、ガラス型、タンデム型に分類されます。

フィルム型

・軽量で柔軟な特性を持つ
・建物の壁面や曲面など、従来の太陽光パネルでは設置が困難だった場所への導入が可能
・日本は耐久性や大型化技術で海外勢にリードしている
・発電コスト低下にはさらなる耐久性向上が必要

ガラス型

・建物建材の一部として既存の高層ビルや住宅の窓ガラスの代替設置が期待され、新たな導入の可能性が期待される
・フィルム型と比較して耐水性が高く、耐久性を確保しやすい
・海外勢でも技術開発が進んでおり、競争が激化している状況にある

ペロブスカイト太陽電池の導入による課題解決の可能性

従来の太陽電池には様々な課題がありました。その一方で、ペロブスカイト太陽電池は、従来の太陽光発電の課題を乗り越え、再生可能エネルギーの普及拡大や安定供給に貢献し、世界の市場において再エネ産業の柱となることで、日本のGX(Green Transformation)の牽引役となることが期待されています。主な課題とその解決の可能性について以下の5つを紹介します。

地域との共生

軽量で柔軟なため、建物の壁面や窓など、従来設置が難しかった場所への導入が可能で、比較的地域共生がしやすい設置形態の実現が期待されています。

国民負担の抑制

・FIT制度による固定価格買取によって国民負担が増大していましたが、技術開発と大量生産により、発電コストを低減することで、将来的には安価な再生可能エネルギー電源となる可能性があります。
・自家消費を中心に導入することで電力の有効活用ができるため、結果的に国民負担の軽減につながります。

出力変動への対応

・太陽光発電は天候によって出力が変動するため、安定したエネルギー供給を実現するための対策が求められています。これに対応するためには、ペロブスカイト太陽電池を建物の屋根・壁・窓など、需要地に近接した場所へ設置することが有効とされています。
・特に、初期段階では高い自家消費率を前提とした発電が期待され、系統負荷の抑制に貢献できると予想されています。

イノベーションの加速とサプライチェーン構築

・従来の太陽電池は原材料や設備機器の大半は海外に依存していましたが、ペロブスカイト太陽電池の主な原材料であるヨウ素は日本が世界でトップクラスの産出量を誇る資源であり、強靭な国内サプライチェーンの形成を通じて、経済・エネルギーの安全保障に貢献することが期待されています。
・製造・廃棄・リサイクルまでのシステム全体の付加価値の創出等により産業競争力強化を実現できる余地が大きいとされています。
・タンデム型ペロブスカイト太陽電池の実装により、既存設備の発電効率を大幅に向上させる可能性があります。


使用済太陽光パネルへの対応

・2030年代後半以降の大量廃棄問題について、ペロブスカイト太陽電池の利点である軽量・減容化の特性を活かし、従来の太陽光パネルよりも低コストなリサイクルシステムを確立できる可能性があります。

これらの点から、ペロブスカイト太陽電池は単なる新技術にとどまらず、日本のエネルギー戦略と産業政策の要として、大きな役割を果たすことが期待されています。

ペロブスカイト太陽電池の需要推計

ペロブスカイト太陽電池の導入拡大において、将来にわたる市場規模を予測することも重要な戦略の一つと考えられます。需要推計は次の手法で行われます。

需要推計手法

ペロブスカイト太陽電池の需要推計は、発電コスト、生産量、導入ポテンシャルの相関を踏まえた分析に基づいて行われています。発電コストの低減が進むにつれ、導入ポテンシャルが増加し、累積生産量の増加がさらなる発電コスト低減をもたらすという習熟効果を考慮した推計が行われています​。
国内市場では、設置可能な面積の算出に各種統計データを活用し、ヒアリングをもとに建物ごとの係数(設置場所別係数)を設定しています。さらに、アンケート調査を基に電気料金水準を考慮した発電コストごとの導入率を推計し、最終的な経済性を加味した導入需要を推計しています。
海外市場については、シリコン太陽電池の導入状況、人口、データアベイラビリティなどを考慮して選定された32ヵ所に対して需要推計が行われています​。 

需要見込み

需要見込みについて、国内市場では、まず経済性の観点から、屋根への設置が優先的に進み、発電コストの低下に伴い壁面や窓にも展開されると予測されています。しかし、発電コストが高い段階では、実際の導入量が限定的になる可能性が指摘されています​。また、導入先としては、公共部門や環境価値を重視する企業が初期の市場を支え、発電コストの低下とともに、より広範な分野への普及拡大が見込まれ、市場形成が進むと考えられています​。
海外市場については、本邦現地法人数が多い国(中国、アメリカ、インドネシアなど)、電気料金が高い国(ドイツ、スペイン、英国、オーストラリアなど)、設備利用率が高い国(インドネシア、アメリカなど)、施工コストが安い国(中国、インドなど)で導入が進み、生産規模拡大に伴う習熟効果を通じ、発電コストが低減するにつれて、世界各地で導入が進むことが予想されます。

次世代太陽電池戦略の進め方

次に、ペロブスカイト太陽電池を核とする次世代太陽電池の導入拡大に向けた今後の戦略について紹介します。基本的な考え方として、再エネ導入拡大と地域共生を両立するものとして期待されることや、量産技術の確立・生産体制整備・需要創出を三位一体で進めることが挙げられていますが、更に以下の通り5つの側面から詳しく解説します。

産業競争力の強化

ペロブスカイト太陽電池の主要原材料であるヨウ素、フィルムや製造装置などの特に重要なものは国内において頑強な生産体制を確立することが求められます。特にフィルム型は、製造・施工・運搬・リサイクルまでのライフサイクル全体での付加価値を捉えて、日本の優位性を確立する必要があります。

量産技術の開発と生産体制の整備

2025年までに発電コスト20円/kWh、2030年までに14円/kWhを実現する技術を確立し、ギガワット級の生産体制を構築することが求められます。2040年には自立した市場形成を目指し、発電コスト10~14円/kWhを達成することに並行して、タンデム型ペロブスカイト太陽電池の社会実装・量産化に向けた開発が進められます。

社会実装・需要創出・海外展開

2025年度から早期に国内市場の立ち上げを図り、2040年までに20ギガワットの導入を目指します。国内市場は海外市場に比べて小さいため、早期から海外展開を視野に入れることが重要と考えられています。公共部門や環境価値を重視する企業を中心に需要創出を進め、安全性を確保しながら官民連携の下で初期市場を形成することが求められます。

施工方法の確立

2024年度から建築基準法などの関係法令を遵守しながら社会実証を開始し、安全性・維持管理性・施工性を考慮した製品開発と施工方法を確立する必要があります。

政策対応

2040年までにペロブスカイト太陽電池を自立した発電設備とすることを目指し、研究開発・生産体制構築・需要創出・適正な廃棄リサイクルの確立を含めた総合的な政策対応を実施することが必要です。

このように、ペロブスカイト太陽電池は、設置の自由度の高さや製造コストの低減可能性を活かし、再生可能エネルギーのさらなる導入拡大に貢献すると考えられます。政府と民間が協力しながら、生産体制の整備・技術革新・国際展開を推進し、日本の産業競争力を強化するとともに、 GXの牽引役となることが期待されます。

ペロブスカイト太陽電池実証事業での取り組み

量産技術の確立と並行して、ペロブスカイト太陽電池の特性を活かした設置方法や施工方法等を含めた性能検証も進められており、建築物への施工や運用試験で得たデータをもとに改良を行っています。また、フィールド実証として、高層ビルやドーム状軽量屋根への設置が計画されており、具体的には福岡市にある大規模なドーム型施設で最大3MW程度のペロブスカイト太陽電池の設置が検討されています。以上のように、2030年までに発電コスト14円/kWhが可能となる技術を確立すべく、様々な設置形態での社会実装を念頭に置いたユーザー企業等と連携した実証を進める取り組みがなされています。

ペロブスカイト太陽電池のその他用途について

ペロブスカイト太陽電池は、その軽量性や柔軟性を活かし、従来の太陽光発電にはなかった多様な用途での利用が期待されています。以下に代表的な用途を紹介します。

交通・モビリティ分野

ペロブスカイト太陽電池は、ルーフパネルとして自動車へ搭載することも注目されています。特に、既にIII-V族化合物太陽電池を用いた車載用途での実証実験が行われており、ペロブスカイト太陽電池についても同様の活用が進められています。

シリコン太陽電池パネルとの併用

2030年代後半には、大量のシリコン太陽電池パネルの廃棄が予想されている中、これに対し、既存のパネルをすぐに廃棄せず、架台として再利用し、その上にペロブスカイト太陽電池を設置する取り組みが進められています。

まとめ

ペロブスカイト太陽電池は、日本の再生可能エネルギーの導入拡大やエネルギーの安定供給、産業競争力の強化に貢献する技術として期待されています。今後世界をリードするためには、日本の最先端のプレーヤーが連携してスピード感を持って市場の獲得に臨むことが求められるでしょう。

【出典・参考資料一覧】

  1. 【1】経済産業省「次世代型太陽電池の導入拡大及び産業競争力強化に向けた官民協議会(次世代型太陽電池戦略)↩︎