エネルギー基本計画は、日本のエネルギー政策の基本的な方向性を示すものです。これは、2002年に制定されたエネルギー政策基本法に基づいて政府が策定し、エネルギーの安定供給、経済成長、脱炭素化を目指しています。特に、世界的な脱炭素化の流れや電力需要が増加する中で、日本の産業立地競争力の観点も踏まえ、エネルギー基本計画は時代に応じて改定されてきました。2025年2月18日には、最新のエネルギー基本計画が閣議決定され、これからのエネルギー政策の指針が示されました。
本記事では2回にわたり、第7次エネルギー基本計画1の内容を前後編に分けて解説します。前編である今回は、エネルギー基本計画の概要や背景、基本的な視点について詳しく解説します。
エネルギー基本計画が制定された背景
日本は自給可能な資源に乏しく、過去に幾度もエネルギー安定供給の危機に直面してきました。特に、1973年の石油危機を受けて、化石燃料の多様化や省エネルギーの推進が進められました。太陽光や原子力、LNGなどの代替エネルギー源が開発され、安定したエネルギー供給体制の構築が目指されました。しかし、2011年の東日本大震災と東京電力福島第一原子力発電所事故を受けて、原子力発電所の多くが停止し、化石燃料への依存が高まりました。これにより、エネルギー供給の脆弱性が再び顕在化しました。
東京電力福島第一原子力発電所事故後の歩み
エネルギー基本計画を見直すきっかけにもなった福島第一原発事故から約14年が経過しましたが、この事故の教訓がエネルギー政策の原点となっています。事故後、政府や関係機関は福島での復興に向けた取り組みを進めており、現在はALPS処理水の海洋放出や燃料デブリの試験的取り出しなどの取り組みが進められています。
第6次エネルギー基本計画策定以降の状況変化

2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画2から3年が経過し、日本を取り巻くエネルギー情勢は大きく変化しました。特に、ロシアのウクライナ侵攻によりエネルギー安全保障への懸念が強まったほか、デジタルトランスフォーメーション(DX)やグリーントランスフォーメーション(GX)の進展に伴い、電力需要の増加が予測されています。
ロシアによるウクライナ侵攻等による経済安全保障上の要請の高まり
2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことは、世界のエネルギー市場に大きな影響を与えました。特に、ロシアにエネルギー供給の多くを依存していた欧州諸国は、ガスの供給不足に直面し、エネルギー価格が急騰しました。この影響は日本にも波及し、エネルギー供給の不安定化が顕著となったことでエネルギー安全保障に関する重要な課題を再認識し、エネルギー供給の多様化と安定化を目指す取り組みを強化する必要性が高まりました。
DXなどの進展に伴う電力需要増加の可能性
DXやGXなどの進展に伴い、電力需要の増加が見込まれています。特に、データセンターの需要増加や、電気自動車(EV)の普及などが要因として挙げられます。
国際エネルギー機関(IEA)の報告によれば、世界の電力需要は2023年から2035年にかけて年率約3%増加するとされています3。この傾向は、日本でも同様であり、今後、経済成長やデータセンター・半導体工場の新増設に伴い、電力需要が増加していくことが予想されています。電力需要の増加に対応するためには、最先端技術の活用によるエネルギー効率の改善に向けた取り組みを強化することが重要です。
エネルギー政策の基本的視点

エネルギー政策を進める上で重要な視点は、安全性(Safety)、エネルギー安定供給(Energy Security)、経済効率性(Economic Efficiency)、そして環境適合性(Environment)の4つです。これらは「S+3Eの原則」としてまとめられており、まず安全性が最優先されます。さらにエネルギー安定供給のために、エネルギー自給率を高めることや、エネルギー供給源の多様化が重要です。そして経済効率性の向上と環境への適合を図る取り組みが必要となります。これらの視点をバランスよく実現することが、エネルギー政策の基本的視点となります。
「S+3Eの原則」の最重要項目「S」
「S+3Eの原則」の最初の要素である安全性は、エネルギー政策において大前提となる事項です。特に原子力は、安全性の確保が最優先されます。過去の事故や災害を教訓に、今後も安全対策を徹底し、国民の不安を解消するための努力が求められます。また、原子力のみならずあらゆるエネルギー源について、自然災害やサイバー攻撃などの新たなリスクに対する安全性確保が求められます。
「S+3Eの原則」の「3E」とは
エネルギー安定供給も重要な原則の一つです。日本は資源が乏しく、エネルギー自給率が低いため、エネルギーの安定供給を確保するために、省エネルギーの推進や化石燃料の調達国を多角化する取り組みが進められています。再生可能エネルギーや原子力の活用を進めることで、エネルギー自給率の向上も期待されています。
経済効率性の向上も欠かせません。エネルギーは生活や産業に欠かせない基盤であり、国際的に遜色のないコストでエネルギー供給されることが求められます。脱炭素化を進める中で、エネルギーコストの上昇を最小限に抑えるための技術や投資も必要です。
最後に、環境適合性は、温室効果ガスの排出削減を含む気候変動対策です。日本の取り組みは、国際的な脱炭素化の流れに合致する形で進められており、2035年、2040年に向けて、温室効果ガス削減目標を掲げ、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて強い意志を示しています。
2040年に向けた政策の方向性

2040年に向けたエネルギー政策は、DXやGXの進展に伴い電力需要が増加する中で脱炭素電源を確保することが重要な課題です。特に、再生可能エネルギーを主力電源として導入するとともに、特定の電源や燃料源に過度に依存しないようバランスの取れた電源構成を目指しています。また、エネルギー危機にも耐えられる強靭なエネルギー需給構造へ転換すべく、省エネルギーの推進や製造業の燃料転換や脱炭素効果の高い電源の活用も欠かせません。さらに脱炭素化に伴うコストの上昇を抑えるため、経済合理的な対策を優先していくことが求められます。
省エネルギー・非化石転換
徹底した省エネの重要性は不変であるとともに、電化や非化石転換が今まで以上に重要となります。特に二酸化炭素の削減をどれだけ実現できるかという観点から経済合理的な取り組みが優先されます。例えば、今後の電力需要増加に対応するため、最先端技術を活用した省エネルギーに取り組むことです。
半導体の省エネ性能の向上や光電融合技術の開発により、データセンターの効率改善などが挙げられます。また、工場の省エネ化を支援するための先端設備への更新支援や、住宅等へ高性能な窓・給湯器の普及が進められています。さらに、エネルギー多消費産業では、製造プロセスの抜本的な転換が必要であり、これを官民一体で進めることが産業競争力の維持・向上につながります。
第7次エネルギー基本計画の前編となる今回は、エネルギー基本計画の概要や背景、基本的な視点について詳しく解説しました。後編では、2040年に向けた政策の方向性など、具体的な施策について解説します。
【出典・参考資料一覧】
- 【1】資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について(第7次エネルギー基本計画)」 ↩︎
- 【2】資源エネルギー庁「これまでのエネルギー基本計画について(第6次エネルギー基本計画)」 ↩︎
- 【3】IEA”World Energy Outlook 2024” ↩︎