COLUMN

- コラム

自然エネルギーや環境保全などに関する様々な取り組みを解説します。

「守るべきは、島人の暮らしと来訪者の命」日本最南端の町·竹富町長が語る、離島防災への静かなる覚悟

【左】梅本秀樹氏(NTN株式会社) 【右】前泊正人氏(沖縄県竹富町長)

沖縄県竹富町 町長 前泊正人氏
インタビューアー:梅本秀樹氏(NTN株式会社)
記事:井村和也氏(株式会社Tech Family)

はじめに

2026年2月、私たちは日本最南端の町、沖縄県竹富町を訪れた。目的は、同町が導入したNTNの移動型独立電源「N³ エヌキューブ」を軸に、離島ならではの防災の取り組みと未来への展望を伺うためだ。

竹富町役場は、行政区域外である石垣島に置かれている。その事実だけでも、この町が抱える防災の困難さが伝わってくる。石垣島の役場庁舎の一室で、前泊正人町長は、時に穏やかに、時に熱を帯びて、島の魅力と防災への揺るぎない想いを語ってくれた。
これは単なる製品導入の事例ではない。日本最南端の町が未来を守るために下した「静かなる覚悟」の記録である。

世界自然遺産の島々──魅力と守るべきもの

9つの有人島からなる、ユニークな町

「竹富町はどのような町ですか?」

インタビュー冒頭の問いに、前泊町長熱を込めて語り始めた。

前泊町長:
「竹富町は、9つの有人島と7つの無人島からなる町です。西表島は2021年に世界自然遺産にも登録されました。本当に大自然と文化が響き合い、様々な動植物が息づく、命の多様性が繋がる町だと思います。」

竹富町の魅力は、島ごとに異なる個性にある。
竹富島には伝統的な建造物が残る集落があり、朝の静寂の中で住民が竹箒で道を掃く音が響く。
西表島の川では、カヌーのパドルを漕ぐ音が自然の風景に溶け合う。
それぞれの島が、それぞれ異なる物語を持っているのだ。

前泊町長:
「島ごとに違う魅力があり、そして一番の魅力は“人の温かさ”だと思います」

「責任ある観光」──“また来てね”“また来るね”の関係

竹富町は年間を通して多くの観光客が訪れる。しかし、前泊町長が目指すのは単なる観光客数の増加ではない。

前泊町長:
「今、“責任ある観光”という観点で取り組んでいます。来てくださる方を温かく迎えられるよう、町を磨き上げているところです」

前泊町長が目指す観光の姿は、「また来てね」「また来るね」という関係性だ。一度きりの訪問ではなく、島を愛し、何度も足を運んでくれる「竹富ファン」を増やしていく。そのために、島々を巡るスタンプラリーの構想や、船の移動距離でマイルが貯まる「シップマイレージ」の仕組みなど、ユニークなアイデアも温めている。

前泊町長:
「竹富ファンと呼ばれるリピーターの方も多く、島を愛する人々が全国から訪れてくださいます。しかし、観光客が増えれば増えるほど、受け入れ体制の整備は重要になります。自然環境の保全と観光の両立、そして来訪者の安全確保。それが『責任ある観光』の本質です」

一方で、オーバーツーリズムの課題にも正面から向き合っている。特に竹富島では、日帰り観光客が集落の生活圏に入り込むケースもあり、事前の周知や船内での案内など、きめ細かな対策を講じている。観光客を歓迎しつつも、住民の暮らしと島の文化を守る。その両立こそが、前泊町長の考える「責任ある観光」。

大阪万博から生まれたマスコットキャラクター

インタビューの合間に、前泊町長はユニークなエピソードを披露してくれた。

前泊町長:
「大阪万博でイリオモテヤマネコの銅像を作ったのですが、フランスと共同展示することになりまして。その銅像を見たフランスのデザイナーが描いてくれたキャラクターなのです」

竹富の「竹」の字を崩したデザインで、日本人にはない感性で描かれたイリオモテヤマネコのキャラクター。

前泊町長はこれを公式SNSシリーズのマークに採用し、Tシャツやマッチなどのグッズも展開している。石垣島の※730(ナナサンマル)交差点にある店舗でも販売されているという。

※ 730(ナナサンマル)交差点
石垣市街地の中心部に位置する、市役所通りと桟橋通り、国道390号線が交わる交差点。名称の由来は、1978年(昭和53年)7月30日に、沖縄県全域で自動車の通行方法がアメリカ式の右側通行から日本本土と同じ左側通行に一斉変更されたことにちなむ。沖縄の本土復帰(1972年)から6年を経て実施されたこの歴史的な変更は「ナナサンマル」と呼ばれ、石垣市では同年9月に記念碑が建立された。現在、730交差点周辺は石垣島随一の繁華街として商店や飲食店が立ち並び、離島ターミナルからも徒歩約5分の距離にある。

こうした遊び心のある取り組みにも、町長の「島の魅力を発信したい」という想いが表れている。

「一番の課題は、役場が行政区域外にあること」

職員がすぐに駆けつけられない現実

話は、町の防災課題へと移る。前泊町長は、迷うことなく最大の課題を挙げた。

前泊町長:
「一番重要視しているのは、役場庁舎が行政区域外の石垣島にあるということです。何か起こった場合、災害時に我々の職員がすぐに駆けつけることが困難になる。そういった中で、島々の方々とどのように連絡を構築し、初動対応をしていくのかが最大の課題です。」

本土の自治体であれば、災害が発生すれば職員が役場に集まり、対策本部を設置し、現場に駆けつける。しかし、竹富町ではそれが物理的に不可能な場合がある。海が荒れれば船は出せず、9つの有人島はそれぞれが孤立する可能性を常に抱えている。

図上訓練で浮かんだ通信の脆弱性

取材の直前、竹富町では職員全員による災害対応の図上訓練が行われていた。

前泊町長:
「先週の土曜日に、災害対応の図上訓練を職員全員で行いました。そこでも様々な課題が出たのですが、私が最も懸念したのは、情報をどのように収集するのか、情報通信の体制が一つではなく複数確保しなければならない状況があるということです」

携帯電話の電波が届かない不感地帯が今なお存在する竹富町。通常の通信手段が途絶えた場合、島々との連絡をどう維持するのか。この課題は、離島自治体にとって生命線とも言える問題だ。

前泊町長:
「そして物資の輸送。公的な支援が届くまでに時間がかかってしまう。そうなると、やはり自助・共助の部分を強化していかなければならないと強く感じています」

台風が教えてくれた「備え」の意味

竹富町の住民は、台風のたびに「孤立」を経験してきた。前泊町長はその現実を語る。

前泊町長:
「台風が直撃した時だけではなく、来る前から海上は荒れています。そして過ぎ去った後でもまだ荒れている。つまり、台風の前後の期間、長期にわたって船が欠航し、物資が届かないのです。」

電気が停電しても、船が走らなければ復旧作業員が島に渡ることすらできない。この厳しい現実が、竹富町の住民に「事前に備える」という意識を根付かせてきた。

前泊町長:
「事前に備えることで、何かが起きた時にどう対応するのか。それを地域ごとにしっかりと固めて、防災意識を持っている。その点では、竹富町の住民の皆様は、非常に高い防災意識を共有されていると認識しています」

物流の安定化 ── 自ら貨物船を走らせる決断

防災の前提として、平時の物流安定化にも前泊町長は力を注いでいる。離島にとって、船は命だ。しかし、民間の船舶事業者だけに頼っていては、安定的な物資輸送は保証されない。

前泊町長:
「物流の安定化は、防災の基盤でもあります。何かあった時に物資が届かないのは、台風の時だけではありません。平時から安定した物流を確保しておくことが、いざという時の備えにもなるのです。」

前泊町長は、町として貨物船を自主運航させるという大胆な決断を下した。民間任せにせず、自治体自らが物流の安定化に乗り出す。この行動力が、竹富町の防災力の根底を支えている。

消防本部がない町を支える「共助」の力

竹富町には消防本部がない。非常備消防として、町民自身が消防団を担っている。この事実は、本土の自治体とは根本的に異なる防災体制を意味する。

前泊町長:
「消防団とは別に、自主防災組織の結成も進めています。自治会レベルでの自主防災がとても重要です。行政が島の外にあるからこそ、地域の皆さんが自ら動ける体制を作らなければなりません」

しかし、課題もある。4人に1人が65歳以上の高齢者となりつつあり、人口減少も進んでいる。限られた人材の中で、いかに防災力を維持・向上させるか。それは竹富町に限らず、全国の離島自治体が直面する共通の課題でもある。

【コラム】未来を照らす独立電源「N³ エヌキューブ」

西表島に設置したN³ エヌキューブ

ここで、竹富町が導入した「N³ エヌキューブ」について説明しよう。N³ エヌキューブは、NTNが開発した移動型の独立電源システムだ。その最大の特徴は、エネルギーの自給自足にある。

・再生可能エネルギーを活用

太陽光パネルで発電し、大容量の蓄電池に電気を貯めることができる。外部からの電力供給に依存しないため、停電時にも安定した電力を確保できる。ゼロエミッションを実現し、世界自然遺産の環境にも配慮した設計となっている。

・多様な電力供給

蓄えた電気は、トイレシステムを動かす以外に照明やスマートフォンの充電、情報機器の電源など、様々な用途に利用できる。災害時の情報収集・発信に不可欠な通信機器への電力供給は、特に離島において大きな意味を持つ。

・水循環式自己完結型水洗トイレ

N³ エヌキューブには、さらに画期的な機能が搭載されている。
汚水をその場で浄化し、洗浄水として再利用するトイレシステムを内蔵。上下水道が整備されていない場所でも、汲み取り不要で衛生的な水洗トイレを使い続けることができる。

上下水道のインフラ整備が困難な離島にとって、この自己完結型のトイレシステムは極めて有効だ。外部からの水の供給も、汚水の排出も不要。世界自然遺産の環境を汚すことなく、衛生的なトイレ環境を提供できる。

・離島にこそ必要な「独立型」の防災インフラ

N³ エヌキューブの「独立型」という特性は、離島の防災において特別な意味を持つ。電力会社の送電網に依存しない発電、上下水道に依存しないトイレ、そして移動可能な設計。これらは全て、インフラが脆弱で、外部からの支援が遅れがちな離島の課題に対する、直接的な解答と言えるだろう。

前泊町長は、N³ エヌキューブの可能性をさらに広げる構想も語っている

前泊町長:
「N³ エヌキューブに通信機能もつけてもらえれば、不感地帯でも通信が取れるようになる。電源、トイレ、そして通信。この3つが揃えば、離島の防災インフラは大きく前進します」

独立電源、自己完結型トイレ、そして通信機能。前泊町長の構想は、N³ エヌキューブを単なる防災設備ではなく、離島の暮らしを支える総合的なインフラへと進化させるものだ。

職員時代からの課題意識が、導入の決め手に

水道事業、インフラ、防災。現場を知る町長の直感

前泊町長は、町長就任前から長年にわたり竹富町の職員として勤務してきた。水道事業やインフラ整備、防災担当を歴任し、離島の課題を肌で感じてきた人物だ。

前泊町長:
「私も職員上がりで、水道事業も長く担当し、インフラの現場も見てきました。防災の部署にいた時には、電波の不感地帯が多いことや、通信環境が脆弱であることを痛感していました」

その長年の課題意識が、N³ エヌキューブとの出会いに繋がった。

前泊町長:
「様々な調査をしていた中で、N³ エヌキューブを知るきっかけがありました。我々の場所に合致しているものではないかと直感し、活用させていただいています。」

西表島・大見謝川での設置と、観光客の反応

N³ エヌキューブは、世界自然遺産・西表島の大見謝川付近に設置された。この場所は、カヌーやトレッキングなどのアクティビティで多くの観光客が訪れるが、これまで公共トイレの設置が困難だった場所だ。

前泊町長:
「世界自然遺産に登録された中で、様々な方が来られて自然環境を楽しんでいただいている。その中で、トイレの設置が極めて困難な環境でもありました。しかし、N³ エヌキューブをその場所に設置することで、観光客の皆様の満足度も上がっています」

設置後、観光ガイドや観光客から多くの好意的な声が寄せられている。

前泊町長:
「観光ガイドさんからは、『そこに作ってくれてありがとう』と言われます。そして『綺麗だし、匂いもないし、普通の公共トイレのイメージではない。とても良い観光に繋がっています』という声もいただいています」

取材の前日には、西表島での撮影中に、偶然トイレを利用した観光客やガイドの方々からも直接感想を聞くことができた。「外のトイレは臭かったりすることが多いけれど、ここは綺麗で気持ちよく使える」「こういう場所だからこそ、こういう設備があると本当にありがたい」。そうした生の声が、N³ エヌキューブの価値を物語っている。

石垣港ターミナルへの展開構想

前泊町長は、N³ エヌキューブの活用をさらに広げる具体的な構想も持っている。石垣港の離島ターミナルには、町民専用の待合所が設置されている。テレビや机が備えられ、弁当を食べながら船の時間を待てる快適な空間だ。

前泊町長:
「石垣港のターミナルに町民待合所を作りました。船を待つ間、快適に過ごしていただける空間です。ここにN³ エヌキューブのトイレを設置することも考えています。町民の皆さんに日常的に使っていただくことで、防災設備としての認知も広がりますし、平時からの活用にもなります」

防災設備を「非日常」のものにせず、日常の中に溶け込ませる。この発想は、N³ エヌキューブを活用する上で理想とする考え方だ。

NTNとの包括連携協定への期待

今後、竹富町はNTNとの包括連携協定の締結を視野に入れている。前泊町長は、その期待を具体的に語る。

前泊町長:
「設置したN³ エヌキューブのトイレはもちろんですが、他の場所にも展開していきたい。そして、通信手段の確保。これは携帯の電波だけではなく、別の通信手段を確保しなければならない。独立電源の確保、コンテナを活用した災害時の物資備蓄やコンテナハウスなど、NTNさんの専門的な知見をいただきながら、防災力の向上に努めていきたい」

竹富町は、すでに船舶事業者やバス運行事業者、石垣市内のヘリ事業者と包括連携協定を締結している。しかし、NTNのような専門的な技術を持つ民間事業者との連携はまだない。

前泊町長:
「この地理的特性のある我々の場所において、防災体制の強化というところでお力をいただきたい。ぜひ連携ができればと思っています」

N³ エヌキューブが繋ぐ、自治体間の新たな交流

奈良県大淀町に設置した「N³ エヌキューブ」

インタビューの中で、興味深い話題が浮上した。同じくN³ エヌキューブを導入した奈良県大淀町との交流の可能性だ。

離島の竹富町と、奈良県の山間部に位置する大淀町。一見すると接点のない二つの自治体が、N³ エヌキューブという共通項で繋がった。前泊町長は、この偶然を前向きに捉えている。

前泊町長:
「我々のところは島ですから、陸続きのところとは全然違う行政をしています。しかし、お互いが違う状況にあるからこそ、防災力の向上のヒントがあるのではないかと思います。同じような状況のところは同じような課題がありますが、そうではないところから逆に活かせるものがあるかもしれない」

N³ エヌキューブを導入した自治体同士の交流。それは、NTNが目指す「パートナーシップ」の新たな形かもしれない。人の交流、知恵の交換、そして防災力の相互向上。製品を通じて生まれた縁が、自治体の枠を超えた連携へと発展する可能性を秘めている。

「防災の主役は、住民と来訪者の皆さんです」

島人の高い防災意識、その背景

前泊町長は、竹富町の住民の防災意識は比較的高い水準にあると語る。その背景には、離島ならではの厳しい現実がある。

前泊町長:
「行政が行政区域外にあるという意識は、前々からのことです。台風が直撃した時だけでなく、来る前から海上は荒れ、過ぎ去った後もまだ荒れている。その間、長期にわたって船が欠航し、物資が届かない。電気が停電しても、船が走らなければ復旧作業すらできない。そういった中で、事前に備えることの重要性を、住民の皆さんは身をもって知っているのです」

公的な支援が届くまでの「空白の時間」を、自分たちの力で乗り越えなければならない。その経験の積み重ねが、竹富町の住民の防災意識を高めてきた。

前泊町長:
「他の陸続きの地域の方々に比べると、防災意識はすごく高いと思います。しかし、まだまだ意識を向上させなければならないとも思っています」

高齢化と人口減少の中で ── 島の未来を見据えた挑戦

竹富町も、全国的な課題である高齢化と人口減少に直面している。

前泊町長:
「4人に1人が65歳以上の高齢者になりつつあります。全国的な人口減少の中で、どのように経済を回していくのか。そして、もし何かあった時に、誰がどのような動きをするのか。職員と町民の皆さん、それぞれの役割分担が重要になってきます」

消防本部がなく、非常備消防として町民が消防団を担う竹富町。自主防災組織の結成も進めながら、共助の部分を強化していく。限られた人材の中で、いかに防災力を維持・向上させるか。前泊町長の挑戦は続く。

この課題に対して、前泊町長は大胆な構想も温めている。波照間島へのインターナショナルスクール誘致だ。現状、島の子どもたちは15歳で島を離れなければならない。高校がないからだ。島に学校を作り、日本全国、さらには世界から生徒を受け入れることで、島の人口維持と活性化を図る。人口が増えれば、防災の担い手も増える。教育と防災は、一見遠いようで、実は深く繋がっている。

前泊町長:
「もっともっと町民の皆さんと防災意識のレベルを上げていく取り組みを進めていきたいと思っています」

暮らしの安定が、防災の基盤になる

前泊町長は、防災を単独の課題として捉えるのではなく、「暮らしの安定」という大きな枠組みの中に位置づけている。

前泊町長:
「暮らしを守る、安定した暮らしを持つ。それが防災の基盤です。医療、交通、通信、物流。これらが安定していてこそ、いざという時の備えも意味を持つのです」

遠隔医療の導入検討、町民専用巡回バスの試験運行、交通空白地帯の解消に向けた自動運転やライドシェアの検討、通信不感地帯の解消。前泊町長が進める施策の一つひとつが、平時の暮らしの質を高めると同時に、災害時のレジリエンスを強化する。防災とは、特別な備えだけではない。日常の暮らしを安定させることそのものが、最大の防災なのだ。

観光防災という新たな使命

竹富町が直面するもう一つの課題が、「観光防災」だ。年間多くの観光客が訪れるこの町では、住民だけでなく来訪者の安全確保も重要な責務となる。

前泊町長:
「町民の皆さんの防災意識は比較的高い水準にあると申し上げましたが、一方で、訪れていただく観光客の皆さんは地理的に不慣れな状況もあり、どうしても防災意識は低下しがちです」

しかし、前泊町長はそれを観光客の責任とは考えていない。

前泊町長:
「これは観光客の皆さんが悪いわけではなく、我々が観光地として受け入れる以上、観光防災もしっかりと取り組まなければならない。分かりやすい情報発信と、町民の皆さんとの協力は必須です」

避難場所の誘導、備蓄品の量の確保(観光客分も含めて)、そして初動体制の整備。町民の命を守ると同時に、来訪者の命を守る。それが、観光地を預かるリーダーとしての前泊町長の覚悟だ。

前泊町長:
「何かが起こった際の初動と受け入れ体制、命を守る行動は、責任を持って進めていきたいと思っています」

2期目に向けて ── 組織改革と未来への布石

自然環境と観光を分離する新体制

前泊町長は、2期目に向けて大胆な組織改革にも着手している。これまで「自然観光課」として一体だった部門を、「自然環境課」と「商工観光課」に分離する。

前泊町長:
「自然環境課は環境保護のところをしっかりやる。商工観光課は商工と連携させないといけない。これまで一緒にしていたものを分けることで、それぞれの専門性を高めていきたいのです」

さらに、町長直轄の「特命推進室」を新設する。高校誘致や訪問税の導入など、既存の部署の枠に収まらない横断的な課題に、スピード感を持って取り組むための組織だ。

こうした組織改革は、防災体制の強化にも直結する。自然環境の保全は防災の基盤であり、観光と商工の連携は観光防災の推進力となる。そして特命推進室は、NTNとの包括連携協定のような、新たなパートナーシップの受け皿にもなり得る。

おわりに

「守るべき、美しい島々がある。そして、そこに暮らす人々と、訪れる人々がいる」

前泊町長の言葉の端々から、離島のリーダーとしての深い責任感と、島への揺るぎない愛情が伝わってくる。役場が行政区域外にあるという、本土の自治体では想像しがたい困難。台風のたびに繰り返される孤立。消防本部すらない中での防災体制の構築。それでも、前泊町長は前を向く。

N³ エヌキューブの導入は、竹富町の防災力強化の第一歩に過ぎない。通信手段の多重化、独立電源の拡充、コンテナを活用した物資備蓄、石垣港ターミナルへの展開、そしてNTNとの包括連携協定。さらには、同じくN³ エヌキューブを導入した大淀町との自治体間交流という、思いがけない可能性も見えてきた。

暮らしの安定が防災の基盤になる。貨物船の自主運航、町民巡回バスの試験運行、遠隔医療の検討、組織改革。前泊町長が進める一つひとつの施策は、全て「島人の暮らしと、来訪者の命を守る」という一本の軸で繋がっている。

離島だからこそ直面する課題がある。しかし、離島だからこそ培われた「自助・共助」の精神がある。竹富町の挑戦は、全国の離島自治体、そして防災に取り組む全ての地域にとって、大きな希望の光となるに違いない。


取材日: 2026年2月
取材場所:沖縄県竹富町役場(石垣島)
取材協力:竹富町長 前泊正人氏、NTN株式会社