〜NTN株式会社 和歌山製作所 N³ エヌキューブ導入事例〜
BCP(事業継続計画)の重要性は、多くの企業が頭では理解している。しかし、「どこから着手すべきか」「投じた設備が本当に機能するのか」「現場に定着するのか」——具体的な一歩を踏み出せずにいる企業や自治体は決して少なくない。
和歌山県橋本市に位置するNTN株式会社 和歌山製作所は、その問いに対する一つの明確な「解」を提示している。2021年に稼働を開始したこの新拠点は、旧製作所の老朽化に伴う移転という契機を活かし、「自然エネルギーの活用」「省エネルギーの推進」、そして「強靭なBCPの構築」という明確なコンセプトのもとに設計された次世代のスマートファクトリーである。
平均年齢37歳という若い従業員たちが、タブレット端末を駆使して最新鋭の設備を操るこの工場では、N³ エヌキューブが単なる「設備」ではなく、組織文化・防災意識・地域連携を結ぶ「触媒」として能動的に活用されている。本記事では、和歌山製作所長である三重野勇次へのインタビューを通じて、N³ エヌキューブ導入の経営的視座、現場の意識変革、そして地域社会との共生を目指す未来のビジョンを紐解いていく。
第1章:新工場設立のコンセプトと「独立電源」への渇望

NTN株式会社 和歌山製作所 所長 三重野勇次
移転を機に目指した「オール電化」とBCPの抜本強化
和歌山製作所の設立には、大きく2つの目的があった。1つは旧製作所の老朽化および拡張性の限界を克服すること。そしてもう1つが、震災をはじめとする自然災害に対するBCP(事業継続計画)の抜本的な強化である。
新工場のコンセプトは「自然エネルギーと省エネルギーを追求するオール電化の工場」。しかし、オール電化には致命的な弱点がある——「停電」に対する脆弱性である。デジタル化・ペーパーレス化が徹底された現代のスマートファクトリーにおいて、電源の喪失は単なる「不便」ではなく、生産活動の完全停止を意味する。
「オール電化である以上、停電に対しては確実な備えをしておかなければなりません。この立地環境を考慮した時、独立性の高い電源の確保が不可欠だと考えました」
和歌山製作所は特別高圧(63,000ボルト)を受電しており、約6.7km離れた変電所から電力を引いている。距離が長ければ長いほど、災害時の断線リスクは高まる。特に山間部では、倒木や土砂崩れによるインフラ寸断の危険性が常に付きまとう。三重野所長は外部インフラに依存しない自前の電源確保を経営課題として掲げた。こうした考えは、内閣府『事業継続ガイドライン』が重視する「重要業務の継続」と「目標復旧時間内の再開」の考え方との親和性が高い。
加えて、三重野自身、かつて海外の事業所で突然の高圧電源喪失を経験している。復旧までに長時間を要し、パソコンの起動すらできない状態に陥った。その時の教訓が、「独立した外部電源の確保」という信念を一層強固なものにしたのだという。
メンテナンスフリーという圧倒的な優位性
独立電源を検討するなかで、一般的なエンジン発電機も候補に挙がった。しかし、そこには「維持管理の壁」が存在した。
エンジン発電機は定期的なメンテナンスが不可欠であり、燃料となるガソリンや軽油の保管には厳格な安全管理が求められる。いざという時に本当に動くのか、燃料は劣化していないか——平時の管理コストと心理的負担は決して小さくない。
その点、N³ エヌキューブは太陽光と風力という再生可能エネルギーで自立発電し、蓄電池に蓄える独立電源システムである。燃料の備蓄は不要、日常的なメンテナンスもほぼ不要、そして1500Wの外部出力を備える非常用電源として機能する。導入から2年が経過した現在も、N³エヌキューブは「メンテナンスフリー」の状態で安定稼働を続けている。
この「維持管理の容易さ」と「電源の独立性」こそが、製造現場の責任者である三重野にとって導入を決断する最大の決め手となった。同時にそれは、環境省が推進する「再生可能エネルギーの自家消費」と「防災対策の強化」を一台で同時に実現する——民間企業が主体となった先進的な実践モデルでもある。
第2章:現場のリアルな声から進化した「実践的防災備蓄」

「もしも」を「いつも」に——支援経験から導かれた備蓄品
和歌山製作所では、N³ エヌキューブを主に「防災備蓄倉庫」として活用している。しかし、そこに備蓄されているのは、単なる水や乾パンといった一般的な非常食ではない。NTNグループとして過去の震災支援で得た現場のリアルな経験から導き出された、極めて実践的なアイテムが厳選されている。
その代表例が「ブルーシート」である。一般的に備蓄されるブルーシートは、10m×10mといった巨大なものが多い。しかし、実際の被災現場では、足場の悪い屋根の上や崩れかけた壁の補強に、そのような巨大で重いシートを素人が取り扱うことは極めて危険である。
そこで和歌山製作所では、現場の声を取り入れ、取り回しが容易な「2間×3間(3.6m×5.4m)」サイズで、耐久性の高い「3000番」と呼ばれる厚手のブルーシートを意図的に備蓄している。被災者個人が、足場の悪い場所でも安全に扱える大きさと強度を兼ね備えたものを選定しているのだ。
「運べる水」へのこだわり——ジャバラ式ポリタンク
もう1つの実践的な備蓄品が「ジャバラ式のポリタンク(10〜15リットル)」である。
災害時、被災地への水の支援として一般的な灯油用ポリタンク(20リットル)が送られることが多い。しかし、水が満杯に入った20kg近いタンクを、高齢者や女性が運ぶことは事実上不可能である。
この教訓から、和歌山製作所では、リュックサックに入れて背負うことも可能な、軽量でコンパクトなジャバラ式のキャンプ用タンクを備蓄している。実際にこれを支援物資として送った際には、「これなら一人でも運べる」と非常に喜ばれたという。

「単に物を置く機能だけでなく、『なぜこのサイズなのか』『なぜこの形状なのか』という考え方を含めて従業員に周知しています。いざという時に、本当に使えるものでなければ意味がありませんから」
N³ エヌキューブという強靭な「器」の中に、現場の知恵が詰まった実践的な「中身」を備える。ハードとソフトの融合こそが、和歌山製作所の防災戦略の真髄である。さらにN³ エヌキューブの1500W外部出力は、炊き出しや乳児用ミルクの調乳、一多様な用途に活用できる電源として期待されている。
第3章:昭和の工場からの脱却と、デジタルネイティブ世代の躍動
平均年齢37歳——若手が牽引する現場改革
和歌山製作所の特徴を語る上で欠かせないのが、従業員の若さである。NTN全体の平均年齢が42歳であるのに対し、和歌山製作所は37歳。現場の最前線で活躍する層に限れば、32歳前後という若さである。
この若返りの背景には、大規模な世代交代がある。旧製作所時代のベテラン層が退職を迎える中、三重野は「派遣社員 → 期間契約社員 → 正社員」という3段階の人材育成スキームを構築した。4年間で延べおよそ150名の派遣社員を受け入れ、その中から適性のある人材を期間契約社員、さらに正社員へとステップアップさせていく。最終的に約70名が正社員として定着し、若い世代への大規模な世代交代が実現したのである。
採用面では、和歌山と大阪を結ぶ生活圏の特性も追い風となった。和歌山製作所では大阪の派遣会社を通じて人材を募集していたが、登録者には和歌山県在住者も多かったという。これまで大阪方面へ通勤していた人材が、地元に近い環境で働けるようになったことで、人材確保と若返りの実現につながった。
かつての「昭和の工場」では、眉間にシワを寄せたベテラン職人が、怒鳴り声とともに若手に技術を叩き込む風景が当たり前だった。部品の保管場所も、ベテランの頭の中にしか存在しない「暗黙知」の世界であった。
しかし現在の和歌山製作所は、その対極にある。無人搬送車(AGV)が工場内を走り回り、従業員はタブレット端末で在庫管理や工程管理を行う。コミュニケーションの主体はチャットツールであり、紙の連絡帳や日報は姿を消した。部品の所在も端末で検索すれば即座に表示される。ベテランの「暗黙知」に頼る必要はもはやない。
「ここ今、平均年齢37歳。チャットでコミュニケーションを取れない人はもう情報収集すらできない。逆に、若い世代は最初からスマホ世代だから、彼らの感覚に合わせた工場づくりが、結果的にもっとも合理的なんです」
「家族に自慢できる工場」という原点
この劇的な変化の背景には、新工場設立時に掲げられたもう1つの重要なコンセプトがある。それは「家族に見せられる、自慢できる工場にする」という従業員自身からの切実な要望であった。
旧製作所時代、従業員アンケートで最も多かった声は「給料を上げてほしい」でも「休みを増やしてほしい」でもなく、「家族を呼べるような綺麗な工場にしてほしい」というものだった。三重野はこの声に心を動かされ、新工場のコンセプトの根幹に据えたのだという。
この思いは、新工場稼働後に実施された「家族見学会」で見事に結実する。1回目に70名、2回目には100名もの家族が訪れた。2回目にはキッチンカー4台を呼び、海鮮丼やクレープなどの食事を楽しみながら、工場内でのベアリング組み立て体験やクイズ大会を実施。子どもたちがベアリングの組み立てに夢中になる姿は、スタッフの予想を超える盛り上がりを見せた。
中には、祖父・父・子と親子3代でNTNに勤めている家族もおり、最新鋭の設備を見て「隔世の感がある」と目を細めるベテランOBの姿もあったという。
デジタル化とN³ エヌキューブの親和性
すべてがデジタル化され、ペーパーレスで稼働する現代の工場において、「電力の喪失」は致命傷となる。紙の図面や台帳が存在しない以上、電気が止まれば「物理的に見えない」のではなく「電子的に見えない」状態に陥り、生産活動は完全にストップしてしまう。
「電気がないということは、見えない。物理的に見えないというより、電子的に見えない状態になる。生産活動自体ができなくなる」
だからこそ、通信機器やIT機器の非常用電源としての活用可能性も期待されるN³ エヌキューブの存在は、デジタル化が進んだスマートファクトリーにおいて極めて高い親和性と重要性を持つ。これは経済産業省『中小企業BCP策定運用指針』や『事業継続力強化計画認定制度』が求める「重要業務の継続」を、設備レベルで担保する取り組みとも言える。
第4章:地域社会からの熱い視線と、新たな防災拠点の構想
視察者が驚く「継続性」の担保
和歌山製作所のN³ エヌキューブには、市議会議員や県庁、市役所、自治会連合会の代表者など、多くの外部関係者が視察に訪れている。彼らが一様に口にするのは、「防災備蓄の維持管理の難しさ」である。
「どれだけの量を持てばいいのか」「消費期限の管理はどうするのか」「いざという時に発電機は本当に動くのか」——多くの自治体が抱えるこれらの悩みに対し、和歌山製作所は明確な解を提示している。
N³ エヌキューブの「メンテナンスフリーの独立電源であること」という特性は、視察者たちに強い感銘を与えている。ガソリンの劣化を心配する必要もなく、常に充電された状態で待機している安心感は、地域の防災リーダーたちにとって極めて魅力的だ。また、和歌山製作所がNTNグループとして過去の震災支援で得た実体験を交えて説明することで、「机上の空論ではない、実践に裏打ちされた備え」として高い信頼を獲得している。
「『発電機は持っているけれども、本当に回るのか分からない、燃料が劣化しているかもしれない』——市議の方も自治会の方も、口を揃えて言われる。N³ エヌキューブなら自家発電しながらずっと使える、それは力強いよね、と」
第2の避難拠点としてのポテンシャル
さらに視察者からは、和歌山製作所そのものを「地域の第2避難拠点」として活用できないか、という期待の声が寄せられている。
災害発生時、従業員の多くは自身の家族の安否確認のために帰宅することが予想される。三重野もそれは当然と認識している。その際、広大な駐車場を持ち、N³ エヌキューブによる電源供給が可能で、隣には27トンの貯水槽を備える和歌山製作所は、地域住民にとって極めて安全な避難場所となり得る。

「もし地域の指定避難所が使えなくなった時、ここには電源があり、水があり、雨風をしのげる頑丈な倉庫があります。車中泊をしながら避難生活を送る拠点として、地域社会に貢献できるポテンシャルは十分にあると考えています」
隣接する産業廃棄物倉庫も、有事の際には内容物を搬出し、屋根と壁に守られた避難本部として転用できる構想が既に描かれている。企業が自社のBCPのためだけに設備を抱え込むのではなく、有事の際には地域社会のインフラとして開放する——これこそが、環境省『防災拠点や避難施設への再エネ設備導入支援』が目指す「地域共生型再エネ」の実践であり、現代の企業に求められる真のCSR(企業の社会的責任)のあり方と言えるだろう。
地域住民を巻き込む防災イベントの構想
和歌山製作所では、従業員とその家族を対象としたイベントとして、消防関係者と連携した救命講習や備蓄食の試食会など、防災をテーマとしたイベントの開催も構想している。
次のステップとしては、地域住民を招いたイベントの開催である。秋祭りのタイミングに合わせ、防災体験と軽スポーツ(ペタンクなど高齢者も参加しやすい種目)を組み合わせた催しを計画中だ。招待券を配布し、出店を設けるなど、地域との接点を自然な形で広げていく考えである。
こうした地域貢献の取り組みは、単なる社会貢献にとどまらない。工場のイメージを刷新し、地域の若い世代に「ここで働きたい」と思わせる採用ブランディングにも直結する。企業防災と地域共生、そして人材確保——N³ エヌキューブを核とした多面的な価値創造が、ここから始まろうとしている。
第5章:環境保全と持続可能な社会への貢献
「ムリ・ムダ・ムラ」の徹底排除——製造プロセスそのものがエコ
和歌山製作所の環境への取り組みは、N³ エヌキューブの導入にとどまらない。NTNが製造するベアリング(軸受)そのものが、機械の摩擦を減らし、エネルギーロスを削減する「なめらかな社会」の実現に直結するエコプロダクトである。
その製品を製造する過程においても、最小限のエネルギーで最大の効果を生み出す努力が続けられている。エネルギー使用量や設備の稼働状況を徹底的に「見える化」し、製造現場における「ムリ・ムダ・ムラ」を排除する活動は、和歌山製作所のDNAとして定着している。具体的には、各設備のエネルギー消費を見える化し、非稼働時間帯の待機電力削減や、工程間の搬送効率の最適化を日常的に行っている。
三重野は、この和歌山での成功事例を他の事業所にも移植し、NTN全体としての環境保全活動を牽引する拠点にしていきたいという意欲を見せている。N³ エヌキューブの導入についても、和歌山製作所で得られた省エネルギーや環境活動の知見を、他事業所にも活かしていければと考えている。
地域と連携した自然保全活動の再開へ
旧製作所時代には、地元の川の清掃など、地域と共同での自然保全活動が活発に行われていた。新工場への移転と立ち上げの多忙さから一時的に中断していたこれらの活動も、工場の稼働が軌道に乗った今、再開に向けた準備が進められている。
和歌山県橋本市と連携し、従業員が主体となって地域の自然を守る活動に参画していく計画だ。周辺の河川清掃や植樹活動を通じて、地域住民との顔の見える関係を構築していくことが目標である。N³ エヌキューブという「環境に優しい防災インフラ」の導入は、地域との共生を目指す和歌山製作所の姿勢を象徴するモニュメントでもある。
NTNへの期待——「もっと発信を」
三重野は、NTNの新規事業部門に対しても率直な期待を寄せている。N³ エヌキューブの技術力や実績は十分に蓄積されているものの、社外への発信力にはまだ伸びしろがあるという認識だ。
自治体や企業がBCP対策を検討する際、「NTNのN³ エヌキューブ」という選択肢が真っ先に想起される状態を作ること——そのためには、和歌山製作所のような実際の導入事例を積極的に公開し、視察の受け入れ体制を整え、地域防災イベントでの実演を重ねていくことが重要だと三重野は考えている。
「良いものを作っているのだから、もっと堂々と世の中に見せていけばいい」——ものづくりの現場を率いるリーダーならではの、シンプルかつ力強いメッセージである。
結び:N³ エヌキューブが切り拓く、企業の新しいBCP戦略
三重野は、他の企業や事業所にN³ エヌキューブを推薦する際の最大のポイントとして、「メンテナンスフリーの独立電源であること」を挙げる。
「最大の強みは、やはりメンテナンスフリーの独立電源であるという点です。当所では防災倉庫として使っていますが、電源供給があることによって、宿泊施設にも、治療スペースにも、業務継続の拠点にもなり得る。現代社会において電源の確保は必須であり、その独立性があるということは、あらゆる生活や生産活動、人間の生命維持活動に貢献できる。用途に応じてオプショナリティ(選択の多様性)を持って活用できるポテンシャルが、非常に高いと判断しています」
和歌山製作所の事例は、N³エヌキューブ導入を検討する企業・自治体に対し、3つの実践的な示唆を与えている。
第一に、「平時から使える設備」であることの価値。災害時だけしか使わない非常用設備は、いざという時に動かない、消費期限が切れている、使い方が分からない——という典型的な失敗を招きやすい。和歌山製作所はN³ エヌキューブを日常の防災備蓄倉庫として運用し、視察対応や家族見学会で常時稼働させている。「平時の運用が有事の信頼につながる」——これがBCP設計の鉄則である。
第二に、「ハードとソフトの融合」。N³ エヌキューブという強靭な器に、ブルーシートのサイズ・厚みやジャバラ式タンクの容量まで含めた現場知を詰め込む。設備の調達よりも、「何を、なぜ、誰のために備えるか」という思想こそが、防災の本質である。
第三に、「企業BCPから地域レジリエンスへ」。自社の事業継続のためだけに設備を抱え込むのではなく、有事には地域の第2避難拠点として開放する。この姿勢は、内閣府『事業継続ガイドライン』や環境省『地域共生型再エネ』が目指す方向性そのものであり、企業価値の向上にも直結する。
平時には企業の環境意識をアピールするシンボル、有事には地域社会を支える防災拠点、そして従業員の家族に「自慢できる工場」のシンボル——このオプショナリティの高さこそが、N³エヌキューブの真の価値である。
昭和の工場から令和のスマートファクトリーへ。劇的な進化を遂げた和歌山製作所は、N³ エヌキューブとともに、企業と地域社会が共生する新しいBCPのモデルケースとして、これからも確かな歩みを続けていく。
- 本記事は、2026年5月にNTN株式会社 和歌山製作所長・三重野勇次に実施したインタビューをもとに構成しています。
- 掲載にあたり、ご本人の確認・承諾を得ています。
- NTN N³ エヌキューブ製品詳細:https://n3.ntn.co.jp/