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自然エネルギーや環境保全などに関する様々な取り組みを解説します。

GX2040ビジョンとは?概要や実現のための産業構造、具体的な施策について解説

GX(グリーントランスフォーメーション)は化石燃料の使用を抑え、クリーンなエネルギーへの移行を目指す取り組みのことを指します。現在、私たちが豊かな生活を送るために使うエネルギーの多くは石油や石炭などの化石燃料に依存しています。しかし、化石燃料を消費すると大量の二酸化炭素(CO2)が排出され、これが地球温暖化の大きな要因となっています。そのため、CO2の排出量を減らしながら経済成長の機会とするため、社会全体を変革することが求められています。この取り組みが「GX」です。
経済産業省は、エネルギーの安定供給と経済成長、そして脱炭素の同時実現を目指し、GXに向けた政策を推進しています。その一環として、10年間で150兆円規模の官民投資を呼び込む「成長志向型カーボンプライシング構想1」を開始し、中長期的な方針を示すものとして「GX2040ビジョン2」を策定しました。このビジョンでは、持続可能な社会を実現するための政策や投資の方向性が示されています。
本記事では2回にわたり、GX2040ビジョンの内容を前後編に分けて解説します。前編となる今回は、その概要や背景、具体的な施策について詳しく掘り下げます。

GX2040ビジョンが策定された背景

GX2040ビジョンは、GXの取り組みの中長期的な方向性を官民で共有するために掲げた戦略です。その背景には、エネルギー供給の不安定化や環境問題、経済構造の変化など、さまざまな要因が影響しています。
まず、ロシアによるウクライナ侵攻や中東情勢の緊迫化が、世界のエネルギー市場に大きな影響を与えました。これにより、安定したエネルギー供給の確保が重要な課題となっています。また、DXの進展により電力需要が増加し、それに対応するエネルギー政策の見直しが求められています。
さらに、経済安全保障の観点から、サプライチェーンの再構築も課題となっています。特に、脱炭素社会の実現には、新たな技術の導入が不可欠ですが、その開発スピードやコスト削減の見通しには不確実性が伴います。
GXに向けた投資の予見可能性を高めるため、政府はGX2040ビジョンで、エネルギー安定供給、経済成長、脱炭素を同時に実現するための長期的な方向性を示しています。また、日本国内の雇用や経済活動への影響を考慮しつつ、アジアを中心に世界の脱炭素化に貢献することも重要なテーマとなっています。

GX2040ビジョンの内容

GX2040ビジョンは、さまざまな施策を通じて脱炭素社会の実現を目指す戦略です。その構成は、大きく八つの要素から成り立っています。
まず、GX産業構造の確立が重要なポイントです。これは、革新技術を活用した新たなGXビジネスの創出を促し、日本の強みを活かした産業の高度化を図ります。次に、GX産業立地の推進が挙げられます。これは、GXに関連する産業が日本経済の牽引役として経済を活性化させることです。
また、世界的な脱炭素化に貢献するため、現実的なトランジション(移行)の重要性が強調されています。そのほか、エネルギーを始めとする個別分野の取り組みや成長志向型カーボンプライシング構想の導入、新産業への労働移行を含む公正な移行の推進など、具体的な政策が示されています。さらに、これらの政策が適切に実行されているかを評価し、必要に応じて見直しを行うことも含まれています。

GX産業構造のポイント

GXの取り組みは、日本が約30年間続いた経済の停滞を打破するチャンスです。GX分野での投資を促進することで、日本の産業全体を高度化できます。
革新技術を活用した新たなGX事業を生み出し、産業の多様化を進めます。また、日本の強みである素材から製品までのサプライチェーンを活用し、脱炭素エネルギーの利用とDXを組み合わせた新たな産業構造を構築します。これにより、国内外の優秀な人材や企業が日本に集まり、活躍できる社会を実現します。

GX産業構造のカギとなる取り組み

日本は、技術力やイノベーションの基盤を持ちながらも、それを迅速に商業化し、大規模な市場へ展開する点で課題を抱えています。また、GX分野は、市場メカニズムだけでは需要が生まれにくく、不確実性も高いため、政府の積極的な関与が不可欠です。このため、日本はGX推進に向けて六つの重要な取り組みを進めています。
①企業経営の制度改善、②イノベーションの社会実装、③大企業のカーブアウト促進、④GX関連市場の創造、⑤中堅・中小企業のGX支援、⑥新たな金融手法の活用が挙げられます。

①企業経営の制度改善

GXを推進するには、企業が成長投資を行いやすい環境を整えることが重要です。特に、脱炭素やエネルギー効率化に向けた設備投資、研究開発、人材育成が求められます。それには日本企業が社会課題の解決を通じた成長戦略を描き、投資家や株主に評価されなければなりません。また、政府としても、制度改善を通じた事業環境整備を進めていく方針です。

②イノベーションの社会実装

GXを加速するためには、新たな技術を実用化し、新たな産業を創出していくことが不可欠です。国内はもちろんのこと、海外の学術機関との提携等を積極的に進め、日本の次の飯のタネになりうる「フロンティア領域の金の卵」を探索、特定する必要があります。また、それらを国内にメリットある形で育成し、商用化につなげ、新たな産業を創出していかなければなりません。

③大企業のカーブアウト促進

大企業のカーブアウトとは、経営戦略の一環として、親会社が子会社や自社事業の一部を切り出し、新しい会社として独立させる経営手法です。大企業や既存のサプライチェーンの中には、未開拓の事業分野に切り込める人材・技術が眠っている可能性が高いです。企業が成長につながりうる「フロンティア領域の金の卵」を見いだし、新たな産業として育てられるように、政府も政策的支援を進める必要があります。

④GX関連市場の創造

GX2040ビジョンでは、GX関連市場を創造するための具体例が明記されています。例えば、GX価値が見える化するや、GX製品の民間企業の調達を促進する、公共調達等のGX製品・サービスの積極調達のための環境を整備する、スケールアップにつながるGXディープテックスタートアップの製品・サービスの調達を促すなどが挙げられており、GX関連市場を活性化する支援等に取り組む姿勢が示されています。

⑤中堅・中小企業のGX支援

日本企業の大多数を占める、中堅・中小企業への支援も重要です。中堅・中小企業がエネルギー消費量や排出量を容易に算定・見える化できるよう、省エネ診断の充実や中小企業基盤整備機構による排出削減計画の策定のハンズオン支援等を行います。省エネ等を促進する設備導入支援、GXに資する革新的な製品・サービスの開発や新事業への挑戦を通じた中小企業の新市場・高付加価値事業への進出を支援し、中堅・中小企業の取り組みを金融機関や支援機関等が連携してサポートしたり、地域におけるプッシュ型の支援体制を構築したりする必要があります。

⑥新たな金融手法の活用

金融手法も探索しています。2024年2月から、世界初の国によるトランジション・ボンド3が発行されました。アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)の枠組み等も活用し、ASEAN各国との協力を強化しています。GX機構によって、民間では取り切れないリスクを補完するための債務保証や出資等による金融支援が進められています。

GX産業立地のポイント

GXの推進には、適切な産業立地が不可欠です。2040年に向け、GX産業の中心となる分野には、ペロブスカイト電池や革新的蓄電池、グリーンスチール、半導体、データセンターなどが含まれます。これらのGX産業は、脱炭素電力を利用した製品・サービスが付加価値を生み出し、日本経済のけん引役として期待されます。
特に、GXとDXの推進により、AIやロボットなどのデジタル技術と連携し、産業構造を高度化することが重要です。また、クリーンエネルギーの供給拠点には地域差があるため、エネルギー供給と産業集積を一体的に考える必要があります。今後は、地方創生と経済成長を両立させる形で、新たな産業拠点の整備が進められるでしょう。

産業構造の転換とGX産業立地政策のあり方

GXの推進には、産業構造の転換が不可欠です。特に、脱炭素電力を活用する産業への移行を促し、持続可能な経済成長を実現するための政策が求められています。そのため、政府は産業立地政策を見直し、GX関連産業の集積を進める方針です。
まず、GX産業への移行を促すため、企業が脱炭素電力を利用しやすくする施策が検討されています。地方自治体と連携し、地域ごとに脱炭素電源を整備するインセンティブとなる措置が検討されます。GX産業を日本経済の新たな成長エンジンとし、競争力の向上を図ることが目指されています。

現実的なトランジションの重要性

日本は、2050年のカーボンニュートラル達成を目指し、世界各国と協調しながら取り組んでいます。しかし、経済のグローバル化に伴い、諸外国との相対的なエネルギー価格差は、自国産業の国際競争力を維持・発展するうえで重要な課題となっています。
そのため、現実的なトランジションを追求し、世界の動向を見極める必要があります。
具体的には、GXとDXを組み合わせることで、海外との相対的なエネルギー価格差を縮小させ、日本の高付加価値製品の市場開拓を加速させる取り組みが求められます。また、中長期的に国内市場で導入を目指している技術については、先に海外市場を確保することで競争力を高める戦略が取られています。例えば、資源投入量の削減につながる技術開発への支援を行い、国際ルールと整合性を持たせながら研究開発や設備投資を促進することで、日本国内の排出削減にもつなげていきます。

世界の脱炭素化への貢献

日本のGX戦略は、国内だけでなく、アジア諸国の脱炭素化にも貢献することを目指しています。特に、日本と同様の課題を抱える国々と連携し、政策協調を進めることが重要です。そのため、日本はAZECを通じた取り組みを強化し、東アジア・アセアン経済研究センター(ERIA)に新たなセンターを設置しました。このセンターを活用し、対外発信を強化するとともに、政策支援を行っています。
AZECの「今後10年のためのアクションプラン4」では、①サプライチェーンの温室効果ガス排出量の可視化などのルール形成、②電力・運輸・産業の各部門の脱炭素化の推進、③具体的なプロジェクトの実施が進められています。また、トランジション・ファイナンスの普及拡大も重要な要素であり、アジア・トランジション・ファイナンス・スタディ・グループ(ATFSG)とADB(アジア開発銀行)などが連携し、投資環境の整備を進めています。さらに、脱炭素ロードマップの策定支援や移行技術リストの作成を通じて、持続可能な投資を促進し、アジア全体のGXを加速させることを目指しています。

GX2040ビジョンの前編となる今回は、GX2040ビジョンの前半部分をまとめ、概要や背景、具体的な施策について詳しく解説しました。後編では、エネルギー政策の見直しや、移行を推進するための施策など、将来の展望につながる項目を解説します。

【出典・参考資料一覧】

  1. 【1】経済産業省「成長志向型カーボンプライシング構想↩︎
  2. 【2】内閣官房「GX実行委員会(GX2040ビジョン)↩︎
  3. 【3】財務省「「ファイナンス」令和6年5月号~内容紹介~(GX経済移行債特集)↩︎
  4. 【4】経済産業省「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)↩︎