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最新の水素基本戦略について解説!水素社会実現に向けた方向性はどうなる?

日本は2017年に、世界で初めて水素の国家戦略となる「水素基本戦略1」を策定しました。これをきっかけに、2022年までに日本を含む26の国と地域が独自の水素戦略を打ち出し、国際的に「水素社会」の実現に向けた動きが加速しました。さらに日本は翌年に「水素閣僚会議(HEM)2」を主催し、国際的な議論の中心的な役割を担っています。
そして2023年6月6日、日本政府は「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議3」において、水素基本戦略を改定しました4。今回の記事では、2回にわたり2023年の改定の背景や水素社会実現に向けた取り組みなどについて紹介します。前編となる今回は、改定の背景や安全な利活用について詳しく解説します。

水素基本戦略における水素の定義

水素は、アンモニアや合成メタン(e-methane)、合成燃料(e-fuel)といったカーボンリサイクル製品の原料や燃料として使われます。それぞれに長所や課題があり、開発にかかる時間も異なるため、製造・利活用に向けた技術開発や実証、導入の取り組みを戦略的に進めることで、カーボンニュートラルの実現を推進していきます。
そのため、水素基本戦略中で出てくる「水素基本戦略」や「水素社会」などの“水素”という言葉は、水素だけを指しているのではなく、アンモニアや合成メタン、合成燃料なども含めた広い意味で使われています。本記事でも水素基本戦略にならい、燃料や原料も対象に含めて“水素”と表記します。

水素基本戦略改定の背景

2017年の策定から2023年の改定までの間に、日本の水素基本戦略を見直すきっかけとなった2つの節目をまず紹介します。

カーボンニュートラル宣言

第1の節目は、2020年10月の「2050年カーボンニュートラル宣言5」です。この宣言も踏まえて改定された第6次エネルギー基本計画6では、2030年度の電源構成の約1%を水素で賄うこととし、水素は、未来を担う新たなエネルギーから、電力供給の一翼も担うエネルギーとして位置付けられました。
あわせて創設された2兆円のグリーンイノベーション基金(GI基金)7では、水素関連技術に約8,000億円が充てられ、商用化に必要な技術の開発や実証を行っています。

エネルギー需要構造の変化

第2の節目は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻です。世界のエネルギー需給構造に地殻変動が起こり、G7エルマウでの首脳宣言ではロシアへのエネルギー依存をフェーズアウトすることが確認され、エネルギーとしての水素利用が現実味を帯びました。
欧州や英国では水素製造目標を大幅に引き上げ、米国ではインフレ削減法の成立による前例のない税制優遇により水素製造が加速しています。欧州委員会ではグリーンディール産業計画の策定により、水素製造・輸入プロジェクトへの巨額の予算措置が講じられ、サプライチェーンの構築が開始される予定で、各国も水素利用を進めています。

水素基本戦略の改定目的

これらの2つの節目を踏まえ、カーボンニュートラルの実現や対ロシア依存からの脱却のために水素への注目が高まりました。
水素基本戦略の策定当初は、水素の技術を確立し、世界に先駆けて国内水素市場をつくり上げることを念頭に置いていました。しかし、IEA「World Energy Outlook 2016」8によれば、総エネルギー需要の全世界における日本のシェアは2000年の5.1%から2040年には2.3%に低下する見込みであり、国内水素市場の広がりに限界があります。一方で、世界の水素市場は2050年までに年間2.5兆ドルの収益と3,000万人の雇用創出が予測されるなど、市場が広がりを見せています。
こうした状況を踏まえ、海外市場の取り込みも念頭に置きながら本戦略を改定することが必要とされました。 2023年に改正された水素基本戦略は、国内外の情勢を踏まえ、2050年カーボンニュートラルを達成するために課題認識と取組方針を明示し、水素社会の早期実現に向けた国家の意志を表すものです。

水素の導入に向けた考え方:S+3E

日本おける水素の導入は、S+3Eを前提として進めます。
SはSafety:安全・安心な水素社会の実現のために適切な保安基準を整備すること、3EはEnergy Security:国内製造が可能で、供給源の多角化によりエネルギー安全保障の強化に資すること、Economic Efficiency:水素の経済的な自立を目指すこと、Environment:カーボンニュートラル実現に向けてトランジションの観点も踏まえながら低炭素水素の導入を促進することを指します。

水素の安全な利活用に向けた考え方

S+3EのS(Safety)について、まずは解説します。Sは安全・安心な水素社会の実現のため、まず保安という「土台」をしっかり作り、その上に振興という「家」を建て、継続してメンテナンスしていくことが重要だと位置づけています。
この理念のもとで、大規模な水素サプライチェーンの構築に向け、既存法令を活用しつつ、現行の保安を含む適用法令全般の関係を整理・明確化します。あわせて、大規模な水素利活用に向けて必要となる保安規制の合理化・適正化を図るなどの環境整備を、スピード感をもって行うとしています。

安全な利活用に向けた取り組み

水素は、他法令を含む既存の産業保安の枠組みを活用することを前提に、一定の利活用を促す環境整備が存在します。しかし、これらは必ずしも大規模な水素利活用を前提としたものではないため、規制の合理化・適正化を含めて水素利用を促す環境を新たに構築する必要があります。官民一丸となって市場導入を加速するため、安全確保を裏付ける科学的データなどの取得を徹底的に追求し、タイムリーで経済的に合理的・適正な水素利用環境を整えます。さらに、サプライチェーン全体で切れ目のないシームレスな保安環境を構築するべく、我が国の技術基準を国内外に発信し、世界的に調和の取れたルールメイキングを目指すことが重要です。
このため、本格的な大規模利用が始まる前の段階で、2050年という長期を視野に入れ、サプライチェーン全体をカバーした保安規制体系の構築に向け、今後5年から10年程度の官民の行動指針として「水素保安の全体戦略(水素保安戦略)」の中間とりまとめが行われました。また、その戦略に基づき下記に取り組んでいくことが示されました。

科学的データ・根拠に基づく取り組み

水素の安全な利活用を進めるために必要となるのが、科学的データの戦略的な獲得と共有です。安全性を客観的に示すためには、明確な根拠としての科学的データが必要です。そのため国の予算を活用した最先端の技術開発プロジェクトを通じて、保安基準の策定に役立つ科学的データを戦略的に取得していきます。
さらに、実証が終わった際に得られた安全に関する科学的データは、共有領域に含まれるものとして、原則的に官民で共有します。また、こうした科学的データを得るための実証試験を円滑に進められる環境も整える方針です。

ルールの合理化・適正化

ルールメイキングの道筋については、技術開発・実証段階と商用段階の二つに分けて対応します。
技術開発・実証段階では既存法令を活用して迅速な対応を実現し、商用段階では新たな技術基準の策定など恒久的な措置を講じます。その際、技術基準は法令間で共通化を図り、適用法令が異なっても安全水準を共通化することで、シームレスな保安環境を構築します。中長期的には、水素利活用の事業実態や事業規模、現行法令の課題、国際動向などを踏まえ、合理的で適正な保安体系に移行します。
また、第三者認証機関・検査機関の整備・育成も重要です。水素のノウハウや知見を集約した中核拠点(CoE:Center of Excellence)を設け、技術基準の検討・策定、基準に沿った技術評価や検査を担う体制を整え、水素社会を支える社会インフラとします。
さらに、水素社会の段階的な実装にあたっては、高圧ガス分野で安全確保を担う自治体に対して、国がサポートを行います。

水素利用環境の整備

水素利用環境の整備にあたっては、まずリスクコミュニケーションが挙げられます。水素社会の実現に関わる関係者が、地域ごとの特性も踏まえながら、消費者や地域住民に対して、水素の性質や取り扱い方法、安全対策について理解を深めてもらうための情報発信や教育を進めていきます。
あわせて人材育成も欠かせません。安全確保を土台となる人材を確保するとともに、国内外で水素保安分野の議論をリードできる人材を育成することが求められます。質と量の両面での取り組みを進め、水素社会を担う人材プールを形成していきます。そのために国や事業者、事業者団体が大学や研究機関を支え、大学などが人材育成や高度化、人材供給の源泉となることで、知の好循環を生み出していきます。
さらに、各国の動向を把握し、規制の調和や国際規格の策定に向けた取り組みも必要です。官民が協力して国際会議に参加し、情報収集や実態把握、関係機関との連携を強化します。そして、水素保安規制の国際的な調和を進めるために、技術基準の共通化が必要となる分野を特定し、その議論に積極的に参加していきます。

まとめ

前編では、2023年6月に改定された水素基本戦略について、その背景と安全な利活用について解説しました。後編では、水素基本戦略のなかでも、S+3Eの観点のうち3Eにフォーカスし、水素社会実現に向けた方向性や取り組みについて紹介します。

【出典・参考文献一覧】

  1. 【1】内閣官房「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議(平成29年12月26日水素基本戦略)↩︎
  2. 【2】資源エネルギー庁「世界初!水素社会の実現に向けて閣僚レベルで議論する「水素閣僚会議」↩︎
  3. 【3】内閣官房「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議↩︎
  4. 【4】内閣官房「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議(令和5年6月6日水素基本戦略(改定)↩︎
  5. 【5】経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略↩︎
  6. 【6】経済産業省「これまでのエネルギー基本計画について↩︎
  7. 【7】経済産業省「グリーンイノベーション基金」 ↩︎
  8. 【8】IEA「World Energy Outlook 2016↩︎