日本は2020年以降の気候変動問題に関する国際的な枠組みであるパリ協定を受けて、「2050年カーボンニュートラル1」の目標に向けて、温室効果ガスの排出を減らす取り組みを進めています。しかしエネルギー資源が少ない日本は、発電に必要な燃料のほとんどを輸入に頼っており、エネルギー安全保障や気候変動対応の観点からも再生可能エネルギーの導入拡大は欠かせず、その中でも注目されているのが洋上風力発電です。
洋上では風が強く安定しており、陸に比べると騒音や景観の影響も少ないため、洋上風力発電の導入が期待されています。本記事では、日本における洋上風力発電の概要、導入の現状、期待されるメリット、そして課題やデメリットをわかりやすく紹介します。
洋上風力発電が注目されている背景
日本で洋上風力発電が注目されるようになったきっかけのひとつは、政府が2020年に発表した「2050年カーボンニュートラル」宣言です。この目標の実現に向けて、政府内の「総合資源エネルギー調査会2」や「グリーンイノベーション戦略推進会議3」などが道筋を検討する中で、洋上風力発電は水素や蓄電池、カーボンリサイクルと並ぶ重点分野のひとつに位置づけられました。
さらに、2025年に公表された「第7次エネルギー基本計画4」では、急速なコストダウンと案件形成が進展する海外と同様に、再生可能エネルギーの主力電源化に向けた「切り札」とされました。2030年までに10ギガワット、2040年までに浮体式も含めて30〜45ギガワットの洋上風力発電を導入するという、明確な数値目標が掲げられています。またこの計画には、関連産業の競争力強化のため、国内調達比率を2040年までに60%とする目標が掲げられています。こうした目標のもと、洋上風力発電の導入拡大と産業競争力強化に向けた動きが、実際に本格化しつつあります。
洋上風力発電に求められている役割
風力発電は、風のエネルギーで風車の羽根を回し、その回転の力で発電機を動かすことで電気をつくります。一般的には、陸上に風車を設置するほうが設備のコストが安く、現在も多くの風力発電設備が、風の条件が良い沿岸部や山間部などに設置されています。日本では、特に北海道や東北エリアに多くの設備がありますが、全国的にも設置が進んでいます。
しかし、日本は風力発電に適した土地(=適地)はそう多くないうえ、陸上の風力発電は開発が進み、適地が減っており、そこで注目されているのが、海上に風車を設置する「洋上風力発電」です。
海上は陸上に比べて風が強く、しかも安定して吹いているため、発電効率が高くなります。また、設置場所が住宅地などの生活圏から離れていることで、騒音や景観への影響が少ないというメリットもあります。こうした理由から、海外でも洋上風力発電の導入が進められており、日本でも重要な選択肢として注目されています。
洋上風力発電が期待されている3つのポイント

洋上風力発電は、これからの再生可能エネルギーを支える主な電源のひとつとして注目されています。期待されている大量導入が可能であることや、海外でのコスト低減が進んでいること、経済波及効果が大きいことについて詳しく解説します。
大量導入の可能性
洋上風力発電は、欧州を中心に世界中で導入が進んでいます。さらに近年では、中国・台湾・韓国などを含むアジア市場でも急成長が見込まれています。
海上は陸上に比べて設置場所を確保しやすく、強くて安定した風を活かせる利点から、四方を海に囲まれた日本においても、洋上風力発電の導入拡大が今後大きく期待されています。
海外でのコスト低減が進行中
洋上風力発電はかつて建設コストの高さが大きな課題とされていましたが、風車の大型化や設計の効率化によって着実にコスト低減が進んできました。ヨーロッパではすでに補助金に依存せず市場で成立するプロジェクトが生まれており、複数の国で実際に採算が取れる事例が広がっています。
一方で、日本では資材価格の上昇や為替変動などにより想定以上のコストがかかり、採算性が厳しくなるケースも出てきました。
経済波及効果への期待
洋上風力発電の設備には、風車のブレードやタワー、ナセルなど、非常に多くの部品が必要で、その数は数万点にも及びます。また、プロジェクトの規模は数千億円にもなることが多く、関連産業全体に与える経済効果は非常に大きなものです。
日本国内には、これらの部品を製造できる潜在的なサプライヤーがすでに存在していますが、現時点では多くの関連産業が海外に拠点を置いているため、国内での産業育成が今後の課題となっています。
実際に欧州の事例では、デンマークのエスビャウ港のように、洋上風力の部品製造や輸送、保守などを通じて、地域に密着した産業が育ち、企業誘致によって約8,000人もの雇用が生まれています。日本でも同様に、洋上風力の導入を通じて国内産業の活性化や雇用創出が期待されています。
洋上風力発電の課題
洋上風力発電は、再生可能エネルギーの中でも期待されていますが、その一方でさまざまな課題も抱えています。ここでは、日本における洋上風力発電の課題として、コストと撤退事例、装置の故障について解説します。
維持費や発電費用が高い
洋上風力発電は、近年コストが下がってきたとはいえ、設置や維持にかかる費用は依然として高いのが現状です。デメリットとしてまず挙げられるのが、初期費用と維持費用の大きさです。
設置時には、海底に基礎を築く工事費用や、発電した電気を陸地に送るための海底ケーブルの敷設費用など、陸上とは比べものにならない費用がかかります。着床式の場合は、風車を倒れないようにするため、海底に穴を掘って土台を固める基礎工事が必要です。水中での作業となるため、工事の難易度も高く、費用がかさみます。一方、浮体式はこうした基礎工事を簡略化できるメリットがありますが、大型化すればするほど風車を支えるために大きく丈夫な浮体が必要となり、結果的に別のコストが発生するため、現在はまだ主流とはなっていません。
さらに、発電した電気は海底ケーブルを通じて陸地に送られます。日本では、発電事業者が既設の送電線まで電力を届ける必要があるため、洋上風車が陸地から離れるほど海底ケーブルが長くなり、その分、費用も増えてしまいます。
コストアップによる撤退事例

コスト面から撤退する事例も現れています。たとえば、2021年12月に行われた日本の洋上風力発電の公募5では、総合商社をはじめとする企業連合が圧倒的な低コストを提示して3つの海域を落札し、業界から大きな注目を集めました。
しかし、ウクライナや中東地域の情勢悪化によって、世界的な物価上昇と金利の上昇が進行し、風車をはじめとする資材価格が急激に上がり、当初の事業計画では採算が合わなくなり、最終的にプロジェクトから撤退することとなりました。
装置の維持メンテナンスの難しさ
装置の維持や故障対応も、洋上風力発電の課題です。日本で初めての洋上風力発電所として知られる、北海道せたな町の「風海鳥(かざみどり)」は、2004年4月に商業運転を開始し、2024年に20年の節目を迎えました。
この発電所は、新エネルギー財団会長賞を受賞し、道内外・海外からの視察や観光地としても親しまれてきました。1号機は運転開始から長く大きなトラブルもなく稼働してきましたが、2023年10月ごろから設備にエラーが発生し、停止が頻発するようになりました。2024年1月以降は、多数のエラーによって発電できない状態が続き、最終的に発電の中止が決定されました。今後は、安全な維持管理を行いながら2026年度に施設を撤去する予定です。
まとめ
洋上風力発電は、再生可能エネルギーの中でも大きな可能性を持つ発電方式であり、日本でも導入が進みつつあります。しかしその一方で、設置や維持にかかるコストの高さ、設備の故障や老朽化への対応といった課題が残されています。
特に海上での工事や保守には専門的な知識と経験が必要であり、日本ではまだ十分な体制が整っていないのが現状です。これらの課題を一つひとつ乗り越えていくことが、洋上風力発電の本格的な普及と、カーボンニュートラル社会の実現に向けた鍵となるでしょう。
【出典・参考文献一覧】
- 【1】経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」 ↩︎
- 【2】経済産業省「総合資源エネルギー調査会総会」 ↩︎
- 【3】経済産業省「グリーンイノベーション戦略推進会議 兼 グリーンイノベーション戦略推進会議ワーキンググループ」 ↩︎
- 【4】資源エネルギー庁「エネルギー基本計画について(第7次エネルギー基本計画)」 ↩︎
- 【5】資源エネルギー庁「資源エネルギー庁(発電事業者の公募)」 ↩︎