経済産業省と環境省は、太陽光発電設備のリサイクル義務化に向けた本格的な議論を進めています。2030年代後半には、太陽光パネル(太陽電池モジュール)の大量廃棄が見込まれており、環境への負荷を軽減するため、リサイクルを義務化する方針です。今回の記事では、リサイクルの具体的な課題や費用などについて議題に上がっている論点を解説します。
2030年代半ばに増加する太陽光パネル廃棄量の課題
太陽光パネルの廃棄量は、2030年代半ばから増加し、最大で年間50万トン(そのうち既設のパネルが約40万トン)に達すると予測されています。1この量がすべて埋め立て処分された場合、2021年度の最終処分量(年間869万トン)の約5%を占めることになります。また、この廃棄量は、自動車や家電4品目(冷蔵庫、洗濯機、テレビ、エアコン)など、個別リサイクル法で処理されている廃棄物の現在の処理量と同じくらいになると見込まれています。そのため、太陽光パネルのリサイクルを進めないと、最終処分量が大幅に増加し、深刻な問題を引き起こす可能性があります。
太陽光パネルのリユース・リサイクルの課題
太陽光パネルの廃棄やリサイクルに関して、個別に定めた法規制は存在せず、廃棄物処理法に基づいて適切に処理される必要があります。一方で、循環型社会形成推進基本法では、廃棄物の管理において「発生抑制(リデュース)、再使用(リユース)、再生利用(リサイクル)」といった優先順位が定められており、これに基づいた対応が求められています。
現状では、廃棄物の処理責任は排出者にあるとしています。また、リサイクル・廃棄までにはリユース事業者や中間処理業者、再資源化事業者などさまざまな処理業者や事業者が関係します。そのような関係事業者へと確実に引き渡される仕組みをどのように構築するかも重要な論点になっています。
このように、太陽光パネルのリユースやリサイクルを進めるには、法的枠組みの整備だけでなく、事業者や処理業者、地域社会が協力し、循環型社会を構築するための取り組みが不可欠です。持続可能なエネルギー社会の実現に向けて、太陽光パネルの廃棄処理をどのように進化させるかが、今後の大きな課題となっています。
太陽光パネルリサイクルの現状

全国の中間処理事業者のうち、太陽光パネルの適正処理やリサイクルに取り組んでいる41社を対象に実施された2022年度の調査によると、日本における太陽光パネルの処理では、回収量が115,000枚(2,304トン)に達しています3。不良品と災害により排出されるものがそれぞれ約3割を占めており、回収されたパネルの約8割が中間処理に回され、その約7割がリサイクルされています。
リサイクル方法としては、特にガラスの分離回収が多くの事業者で行われており、この材料回収はリサイクルの中心的な取り組みとなっています。一方、回収量の約2割はリユース(再利用)され、約8割がリサイクルや熱回収などの中間処理をされた後、最終的に402トンが最終処分されています。
このように、日本では太陽光パネルのリサイクルが進められていますが、さらなる取り組みが必要です。
今後の方向性①リサイクルの義務化
今後予定されている太陽光パネルの大量廃棄に向けて、できるだけ多くのパネルを回収し、再資源化していくことが重要です。しかし、太陽光パネルにはアルミや銀などの価値が高い資源が含まれる一方、重量比6割を占めるガラスに関しては、品質や経済的価値からもリサイクルに回されず、廃棄されることが多い現状があります。したがって、再資源化を円滑に行うためには、太陽光パネルのリサイクルを義務付ける制度を創設し、関係者や事業者を誘導することが検討されています。
今後の方向性②太陽光パネル独自のリサイクル法
使用済太陽光パネルのリサイクル義務化にあたっては、再資源化を実施する主体者及びモノの流れについて、太陽光パネルの製品としての特質や各事業者の立場・状況を考慮しながら検討する必要があります。例えば、家電や自動車は新品を購入する時に使用済製品は回収され、リサイクルに回される商習慣がありますが、太陽光パネルに至っては使用済製品の資源価値が低いため、新品と交換時に回収される商習慣はありません。また、太陽光パネルはライフサイクルが20~30年と長期間で、海外製造業者のシェアが高く、廃棄時に製造業者等が不存在となることも想定されるため、「排出者」が責任を持って対応することが重要です。このように家電リサイクル法や自動車リサイクル法などの既存のリサイクル法を参考に具体的な検討が進められています。
使用済太陽光パネルの放置問題
発電事業が終了した後、設備が適切に管理・廃棄されず放置されるケースには、災害や故障で設備が破損したにもかかわらず、修繕せず事業を中断したまま長期間放置する場合や、事業者が倒産して設備の管理が継承されず、責任の所在が不明になる場合などが考えられます。
もし放置された設備が「廃棄物」と判断されれば、廃棄物処理法に基づき適切な処理が行われ、不法投棄の場合には行政代執行も可能です。しかし、設備が廃棄物に該当しないと判断された場合には、対応が難しいのが現状です。
そこで、発電事業者等の責任による管理及び処理が原則でありますが、万が一事業終了後に放置された場合を想定した制度的対応が今後必要ではないかと考えられています。
リサイクルの費用は誰が負担するのか?

再資源化にかかる費用に関しては、家電リサイクル法では、所有者(排出者)が排出時に小売業者などに支払っており、自動車リサイクル法では、所有者が新車登録時に費用を預託する仕組みになっています。一方、太陽光パネルに関しては、再生可能エネルギー特措法(FIT法)で太陽光発電設備の廃棄等費用を担保するため、現行の認定制度の中で原則として源泉徴収的な外部積立てを行っています。
太陽光パネルのリサイクル義務化にあっては、こうした既存の制度を参考に、発電設備の解体等費用と、再資源化するための(狭義のリサイクル)費用に分け、それぞれをライフサイクルのどの段階でどの事業者に費用負担を求めるのか、徴収した費用を一括管理する主体をどこにするのかなどに関して検討が進められる予定です。
太陽光パネルの廃棄ピーク平準化に向けた基本的方向性

長期安定電源化による排出抑制
太陽光パネルの大量廃棄が予測される中、廃棄のピークを抑えるためには、太陽光発電設備の長期安定電源化が必要です。これに向けて、政府、事業者、事業者団体、関係事業者がそれぞれの役割を果たし、持続可能な運用を促進するアクションプランの策定が検討されています。
特に住宅用のFIT(固定価格買取制度)設備については、買取期間終了後の選択肢を広げる取り組みが進められています。資源エネルギー庁の公式サイト5では、買取期間終了後に売電可能な小売電気事業者の情報が公開され、設備を持続的に活用するための選択肢が紹介されています。これにより、買取期間終了後も太陽光発電の利用が継続されることが期待されています。
リユースの促進による排出抑制
太陽光パネルの排出を抑えるもう一つの重要な手段がリユースの促進です。特に、再利用可能なパネルの性能診断や情報管理、保証付きのパネル販売など、先進的な取り組みを広く展開することが求められています。これにより、リユースパネルの適切な流通が促進され、廃棄されるパネルの量を減らすことが可能になります。
また、適正なリユースを推進するために、「太陽光パネルの適正なリユース促進ガイドライン」の周知徹底が必要とされています。
環境省が実施している実証事業
環境省は、使用済太陽光パネルの適正処理を促進するため、社会実装を見据えた情報管理プラットフォームの開発や、リユース機能の拡張・改善に関する実証事業を行っています。具体的には金属資源の濃縮設備を活用した回収方法の検証が実施されたり、住宅用太陽光パネルの導入量が全国第2位の埼玉県では、パネルの収集ルートを確立するための実証実験も行われました。
さらに、太陽光発電設備の長期間の運転による廃棄物の発生抑制や、使用可能なパネルのリユース促進を目的としたデータ収集が行われており、国内に設置された太陽光パネルから各種情報を取得し、将来的にはDPP(デジタル・プロダクト・パスポート)と同様の情報伝達システムを活用することで、関係事業者間の情報共有を促進し、国内での太陽光パネルの3R(リデュース・リユース・リサイクル)を推進する社会的な仕組みの構築を目指しています。
このような取り組みにより、使用済太陽光パネルの適正な処理と再資源化を促進し、持続可能な資源循環の実現を目指しています。
【出典・参考資料一覧】